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2016/10/10

見ると頭が悪くなる映画|ローランド・エメリッヒ 『2012』

<世界の終わり>を描いた映画は魅力的だ。

現実では目にすることができないものを画にして見せてくれる、それこそ映画のすばらしい点のひとつだ。
ただ、世界の終わりを魅力的に描けている映画は多くはない。


2012 スタンダード版 [DVD]

例えば、ローランド・エメリッヒが監督した『2012』を見る。
レンタルDVDなら、100円レンタルだ。

この映画の世界では全地球的な地殻変動の発生で、陸地がほとんど水没した。
人類が滅亡、中国のヒマラヤでひそかに建造された「箱舟」に残された人類が乗り込む。
この映画は<滅び>の景色が最大のセールス・ポイントになっている映画だ。

「マヤ暦によると、2012年に人類は滅亡する」という話が世界中に広まったためか、この映画は大ヒットを記録した。





<世界は滅びてしまいましたが、一握りの特権階層とお金持ちだけは生き残ることができましたよ。主人公一家は特権階級でも金持ちでもないけど助かりました。めでたしめでたし>
『2012』とは、そういうお話である。

『2012』のクライマックスとは、カタストロフではない。
主人公が生き残った人類を載せた「方舟」の中で溺れかけたけどどうにか助かるという場面である。
ほかのエメリッヒ映画と同様で、クライマックスであるはずのパートは淡々とまるで段取りのごとく進む。
大きな地震で高速道路は落ち、道は壊れ、ビルは次々と崩れ、大きな地割れも巨大な津波も襲いかかる。
「はい、世界が滅びる様子ですよ」
と誰もが思い浮かべるような映像が続くのみ。見栄えばかり優先で、理屈に合わない描写もおかまいなしだ。
VFXプロダクションのデモ映像を延々見せてる。
そういう感じだ。

で、未曾有の災厄の前に死にゆく人や動物には関心がないのがわかる。

主人公と、主人公の元奥さんの現在の恋人を含む主人公と一緒に行動する連中、は奇跡的な幸運が連続して助かる。
道路が壊れようが、ビルが倒れてこようが、火山弾が飛んでこようが、地割れが襲って来ようが、ギリギリのタイミングで助かる。
しまいにはズルをして「方舟」に乗り込む。
そして、ものすごいカタストロフを避けて生き延びた男が、「方舟」の船内で溺れかかるという、よくわからない見せ場に至るのだ。

ディザスターより個人の災難だ。
なんか、ローランド・エメリッヒ先生にはそういう信念があるみたいだ。

ローランド・エメリッヒは変なクセというかパターンを持っている。
世界が滅びるかどうかという状況の中で、なぜか家族のちまちましたことを描き始めて、大きな状況から顔を背けるのだ。
2016年公開作品『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』では敵のボスキャラに追われている子供や老人が、砂漠を逃げまどう犬を助ける、ということに力を入れてた。
変だ。とても。

ローランド・エメリッヒは何本もカタストロフ的な状況を描く映画を撮っているが、この人くらい「滅び」をつまらなく描くヤツはいないんじゃないだろうか。
CG・VFXによって、映画における<リアリティ>描写の質は著しく向上した。しかし、だからと言って、それが面白さに結びつくかといえば、答えはノーだ。
それはエメリッヒの撮ってきた映画を順を追って鑑賞するとよく分かる。

ローランド・エメリッヒは、予算が潤沢な映画を撮る機会に恵まれている監督だ。
たっぷりの予算とCG・VFXを使える監督だ。
恵まれた環境があるというのに、思わず椅子から転げ落ちそうになるがっかり映画を撮ることでおなじみである。
よっぽどすごい営業力があるのかはたまた力のあるパトロンでもいるのか出資者に対しては何らかのセックスアピールでもあるからなのか、干されることもなく、潤沢な予算の映画を撮り続けている。
誰か『ローランド・エメリッヒはなぜ仕事が途切れないのか』というテーマで新書を書いてはくれないか。理由が知りたい。

『2012』とは、見ているとどんどん頭が悪くなっていく映画である。
で、『地獄の沙汰も金次第』という言葉を正しく理解できる映画だ。

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