死んでしまった人は、死んだ後でどういった姿になるのだろうか。
黒沢清監督の『叫(さけび)』を観ながらそういうことを考えていた。
死者の姿。
江戸時代の怪談はどうだったか。
「四谷怪談」のお岩さんは白装束、「番町皿屋敷」は生前の女中の姿で現れた。
円山応挙の幽霊画は死に装束。
別な人の描いた幽霊画。死んだ時の姿かな、これは。
「幽霊」っていうけど、屍体が動く、ゾンビのようにも思える。
昔、学習雑誌の夏の特集に載っていた怪談特集だとか、中岡俊哉先生や佐藤有文先生などのものした怪談本に登場する幽霊はどういう姿かたちかはあまり描写されていなかったけれど、死んだ時点での服装と書かれていることが多かったように思う。
空襲で亡くなった幽霊は昔の学生の姿だったり、防空頭巾姿だったり、と書かれていた。
衝撃的だったのは、実話怪談「超怖い話」の平山夢明執筆エピソードに登場した幽霊である。
赤羽の全焼したアパート跡に現れる幽霊。
老婆が、ビデオを巻き戻すように焼死のプロセスを繰り返す。画を思い浮かべてぞくぞくした。
大手町の将門の首塚から「持ち帰った」男が夜中、浴室で腸を洗う落ち武者を目撃する。
平山夢明の実話怪談では、事故や事件に遭遇して落命した者が、肉体が著しく損壊した姿で出現するというのが、ものすごくインパクトがあった。
何かの事故現場となったところで、人間の残骸のようなものがすがってきて、口と思しいところから何かを囁かれて失神する女性。
腐敗して崩れ落ちる幽霊。
読後感が最悪。
しかし、それが癖になる。
映画の世界では、中田秀夫監督「リング」に登場した黒い長髪で白装束の貞子のインパクトは強烈だった。
以降、ホラー映画には貞子に似た幽霊が跋扈するようになった。
食傷気味になるくらいに。
黒沢清監督の映画『叫』(さけび)に出てくる幽霊に魅せられた。
幽霊は赤い服を着て、「ここにいる」と主張する。