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2018/09/08

必読の映画プレゼンテーション漫画「邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん」

服部昇大「邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん」は、日本映画および一部の外国映画について書かれたたいへん面白い漫画である。

邦画好きの女子高生・邦キチこと邦吉映子が「映画について語る若人の部」なるクラブ活動に参加して、ハリウッド映画が好きな部長相手に邦画をプレゼンする。

邦キチは、陽の当たらない日本映画について熱く語る。

いや、「陽の当たらない日本映画」などという言い方は穏当にすぎるものであって、実際は「誰がこんな映画を見るんだ」というような日本映画が取り上げられている。
様々な理由から地雷が多数埋まった映画を、邦キチはものすごい熱量と明るい笑顔でもってプレゼンするのである。
邦キチは、一般的な映画ファンからは大いにズレている。
ごく一般的な映画ファンとは、マスメディアやソーシャルメディアで大勢の人が騒いでる映画、主としてハリウッドのブロックバスターたまに邦画の大量の先っ伝を投入した話題作を友だちと観に行くというような人々だが、邦キチはそんなものに目もくれない。
ひっそり公開された日本映画、興業的には失敗してしまった作品、レンタルビデオ店でも目立たないような映画を熱を持って語るのだ。
ときに、世間からさんざん酷評を浴びせられた映画も俎上に上げる。
取り上げられている映画を挙げておく。

『魔女の宅急便(実写版)』
『DOG×POLICE 純白の絆』
『電人ザボーガー』
『ゲゲゲの鬼太郎・千年呪い歌』
『箱入り息子の恋』
『バーフバリ』(インド映画)
『貞子3D』
『哭声/コクソン』(韓国映画)
『劇場版仮面ライダーオーズ WONDERFUL 将軍と21のコアメダル』
『テラフォーマーズ』
『クリーピー・偽りの隣人』
『CASSHERN』
『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』
『ドラゴンボール EVOLUTION』(アメリカ映画)
『デビルマン』

この絵柄のチョイス。ひねくれた漫画ファンのハートを刺激するでは素晴らしいチョイスではないか。邦キチは、どうも陸奥A子先生タッチのようだ。
70~80年代の少女漫画タッチを使っていて可愛らしいタッチでありながら、描かれているのは〈熱〉である。
が、邦キチの日本映画への愛と熱情は、わたしたちの映画鑑賞のあり方を根底から揺さぶるのである。

映画が好きで、よく映画館に足を運ぶという人の大半はハリウッド映画が好きで、ハリウッド映画について語ったりブログやSNSに感想などを書いたりしている。
宣伝にほだされている人たちである。
中華圏映画や韓国映画、インド映画は公開規模が小さくて宣伝費も少ないから注目なんぞしない。
一部の好き者しか行かない。
日本映画については、大作・話題作についてのみ見に行く人がほとんどだろう。
TV局が作った映画、話題の漫画の実写化、ときにSNSを通じて評判が広まった低予算映画など、世間的に話題になったものについてはマスメディアで火がつくと観に行く。

日本では日本映画について語る人が多くない。
アメリカの映画について語る人の多さに比べて、日本映画を語る人はものすごく少ないように感じる。映画ファンを自称する人のなかで、日本映画が好きだという人は少ない。
日本映画は語られないものだし、多くの場合は侮蔑して唾棄すべき対象である。
語っている人がいるかと思えば、大抵の場合はやれ質が低いやれ演技がだめだ脚本がカスだ予算がない役者がいないプロデューサーもカントクも馬鹿だなどという悪口の羅列だったりする。
日本映画について語る人の多くは、暗くてネガティブな意見ばかり口にする。
〈鼻で笑う〉人のなんと多いことか。

「邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん」は、映画をプレゼンテーションする漫画だ。
邦キチは、「日本映画にはこんな楽しみ方もありますよ」と笑いを交えて教えてくれるのだ。
映画を見るのにカネも時間も費やしているのだ、どんな映画だって何らかの楽しみを見い出せばいいのだ。

そう思える読後感だ。
爽やかである。




服部昇大は日本語ラップに造詣が深い人としても有名で、ライムスター宇多丸に強い影響を受けている。
このマンガは宇多丸の「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」初期の映画評論コーナー「シネマハスラー」が着想のヒントになったと推測する。
「シネマハスラー」は邦画を取り上げて、宇多丸が緻密に批評するのが売りだった。
その結果、映画の瑕疵があからさまになって、それをあげつらう宇多丸の文言は、批評芸というか笑いとして成立していた。
服部昇大は、熱心なリスナーだったので、宇多丸の批評を滋養にして「邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん」を生み出したと推測する。
「映画の当たり屋稼業」と称してモンダイある日本映画を切りまくっていた宇多丸の遺伝子を受け継いだ漫画だと思っている。