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2016/04/06

宇宙戦艦ヤマトはなぜ大和に偽装したのか。

サーシャが火星に到達して亡くなったのはヤマトのせいである。
ヤマトが戦艦大和を改造する必要が生じたからだ。



『宇宙戦艦ヤマト』のものがたりは、イスカンダル星人・サーシャの持ってきた波動エンジンの設計図によって動き出した。
波動エンジンの設計図を得たことで、干上がった海に眠る戦艦大和を宇宙戦艦に改造するという、すばらしい計画が始まるのである。

男のロマンとしか言いようがない、すばらしい計画。


その道は、30年にわたるデウス・エクス・マキナへの道でもあったが、1974年の時点でそうなることはもちろん明らかではなかった。


 『宇宙戦艦ヤマト』第1シリーズ、第1話の名場面。
海が干上がったためにむき出しになった戦艦大和の残骸だ。

このビジュアルは強く印象に残った。

大宇宙の遥か彼方、大マゼラン星雲のイスカンダル星から宇宙船が太陽系に飛来してきた。

サーシャが火星に到達した時、地球では大昔の鉄錆だらけの戦艦を敵に気づかれないように偽装までしたうえで移民船に改造するという極秘作業が進行していた。
かつて海だった、干上がった場所で赤く錆びた姿という偽装で大昔の戦艦を宇宙船に改造する。これぞ男のロマン。

サーシャは波動エンジンの設計図に加えて、スターシャのメッセージを携えていた。宇宙船は火星の地表に激突、サーシャは絶命していた。
メッセージの内容は、以下のようなものだった。

「イスカンダル星に、放射能除去装置があるから取りに来なさい」

ものすごくぼんやりしている。が、波動エンジンの設計図も添えられていた。

それを真に受けた地球の人々は、戦艦大和の移民船改造計画を宇宙戦艦建造に変更した。250年前、撃沈されて大破した戦艦大和を移民宇宙船に改造するというのが、理解に困難を伴うものである。まあ、エリートとかDNAでも積み込んで逃げる計画だったのだろうと推測する。それが、戦艦にして強力なエンジンを積み、エンジンのエネルギーを利用した最終兵器も開発してしまった。
それもかなりの突貫作業でもって。
イスカンダルのスターシャのメッセージだとか、波動エンジンの設計図とか、言語はどうなってたんだろうか。イスカンダルの言語なんだろうか。英語なんだろうか。作品で使われたように、日本語なんだろうか。

ここで『宇宙戦艦ヤマト』最初にして最大の疑問が生じる。
イスカンダル星人はどうして波動エンジンだけを提供したのだろうか。
コスモクリーナーDも提供できたのではないだろうか。
なぜコスモクリーナーD本体もしくは設計図を持ってこなかったんだろう。

スターシャは「コスモクリーナーDを取りに来させた」ことの意図を語っている。
「生きる方法は自分の力で掴み取らなければ意味がないのです」と。
だとしたら、波動エンジンの設計図を妹に持たせて地球人に届けたのはなぜなのか。
地球人は己の力でイスカンダルへ到達できると
しかし、ヤマトのクルーには波動エンジンとコスモクリーナーDの供与の違いについて疑問を持つ者はいなかった。

しかし、サーシャが携えてきたコスモクリーナーDを受け取ったということと、ガミラス帝国の侵略は別の問題である。
超大型爆弾による攻撃がなくならなければ、放射能汚染は続く。
ガミラス帝国と戦う物語を創る必要があるが、そこに宇宙戦艦ヤマトを登場させられるかどうかは、かなり難しい気もする。
いや、コスモクリーナーDとともに届いた波動エンジン設計図を解読してエンジンを作るのだって難しいのではあるまいか。

いやいや、『宇宙戦艦ヤマト』が飛び立つのだって難しい。

火星で発見された宇宙船を開けると、グチョグチョに腐乱した死体があって、回収されたメッセージも波動エンジンの設計図も解読できずに地球滅亡・・・
ああだめだだめだ。




松本零士+スタジオぬえのデザイン力が
『宇宙戦艦ヤマト』を変えた。


われわれが目にした『宇宙戦艦ヤマト』は、当初の企画とはだいぶ違うものだ。
それは、あのすばらしいデザインがもたらしたものではないかと考える。
「宇宙戦艦ヤマト」のデザインが出来上がってきて、それがエポックと言っていいカッコいい出来だった。
このデザインをもとに膨らませられた物語だと思う。

ご承知のように、松本零士が参加する以前の『宇宙戦艦ヤマト』は、はっきり言って企画が通るようなものではなく、岩石で艦体を覆った「ヤマト」というひどく野暮ったいメカデザイン。
おまけに、人物は劇画風味のキャラクターデザイン。さいとう・たかを先生が少年誌で書くときのタッチに似てる気がする。旭丘光志の画に似てるような気もする。




アニメは画が受け入れられるか/受け入れられないかがすべてである。
仮に上記のビジュアルで企画が通ったとしたら、松本零士が参加していなかったとしたら、『宇宙戦艦ヤマト』はどんな運命を辿っただろうか。

しかし、松本零士が招かれて状況は一変した。
松本零士デザイン+スタジオぬえがクリーンアップした宇宙戦艦ヤマトの圧倒的なカッコよさ。
あのビジュアルの説得力によって、作品の方向性が変わったのだ。

戦艦大和を改造した宇宙戦艦ヤマトはあまりにもかっこ良かった。
「いや、あんな宇宙戦艦ありえない」などというゴリゴリのSFマニアを黙らせてしまうくらい、圧倒的にかっこ良かった。

「大昔の鉄錆だらけ戦艦を敵に気づかれないように偽装までしたうえで移民船に改造する」というのは、戦艦大和を宇宙戦艦ヤマトに生まれ変わらせるための後付のアイデアだろう。
250年以上も昔、撃沈された戦艦。
真っ二つに折れ横転して沈没していた巨大な残骸を引き起こし、潰れていた艦橋を再生し、さらに折れた艦体を土の中でつなげて再生させた宇宙戦艦。しかも戦艦は錆と泥に塗れて朽ちた姿に偽装されて、地表でガミラスの攻撃のリスクが高い中で改造が進んだのである。
こんなむちゃくちゃな設定も、「戦艦大和そっくりの宇宙戦艦」の理由を明確にするために実行されたのである。
「戦艦大和」を改造して宇宙戦艦にするというアイデアとデザインが決定したので、改造するにあたって強力なエンジンが必要だ、だったら異星人からもたらせれたらいいんじゃないか・・・その異星人は、放射能を除去できるオーバーテクノロジーを持っていて・・・というように決まっていったのだろうと邪推する。

宇宙戦艦ヤマトのデザインは、これまでのアニメ制作者からは出てこなかった斬新なものであり、まったく新しいものだった。
あのような複雑なフォルムで、鈍色の宇宙戦艦は、動かない画としてはあった。あれを動かそうというのは無謀きわまりないし、TVアニメの枠でできるものでもない。普通ならば却下される。

宇宙戦艦ヤマトのデザイン登場によって、スタッフのモチベーションはかなり上がったのではないだろうか。
あの宇宙戦艦を動かして、新しい物語を創ろう。
かつてない、「新しいもの」を生み出す機運が高まったのではないだろうか。




ヤマトは海底でこのような姿になっている。
艦橋は潰れて土のなかにめり込んでいるのだという。

『宇宙戦艦ヤマト 完結編』の最後、

1970年代前半の段階で、戦艦大和がこのような姿になっていることが明らかだったとしたら、『宇宙戦艦ヤマト』という物語は生まれただろうか?

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