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2020/07/24

『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』は旅立たず。

時に西暦2020年2月、新作アニメ映画『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』と、TVシリーズ『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』を再編集して新作カットを加えた映画『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』制作と公開がアナウンスされた。
この頃は、新型肺炎の感染拡大によって世界が、そしてアニメ界も大きな影響を受けるとは、誰も思わなかった。

『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』公開は、「ネクストウィンター」だという。
映画『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』は「今秋」 と発表されている。詳細な日時はまだ告知されていない。

「宇宙戦艦ヤマト:次回作「2205」は「短期決戦」 公開は「ネクストウィンター」 福井晴敏が明かす」

2020年2月3日
https://mantan-web.jp/article/20200203dog00m200079000c.html


「宇宙戦艦ヤマト:次回作「2205」は「短期決戦」 公開は「ネクストウィンター」 福井晴敏が明かす」
説明を追加



これ以降、製作者サイドからは作品についてのインフォメーションは出ていない。

公式ウェブサイトも(2020年7月末時点では)まだオープンしていなくて、ほかのプロモーションも行われていない。


制作会社が運営する『宇宙戦艦ヤマト2202』の公式サイトにも新しい情報は出ていない。
約半年、新作の情報は出ていない。

映画興行や演劇、音楽のライブイベントについて今年の秋以降、来年あたりまでの様々な情報が発表されている。
中止、延期、ライブからネット配信への変更などの告知である。
今年最大の話題作
動向を気にしているお客さんのことを考えれば当然するべきことだ。

しかし、ふたつの新しい『ヤマト』については情報がない。
その理由を考えてみよう。
あくまで仮説であり妄説なのだということはお断りしておく。




『ヤマト』新作の情報がない理由


1)ヤマトファンを焦らす、高度な戦略かもしれない

まず考えられるのは、宣伝活動として、意識的に仕掛けているのかもしれないということ。
発表する情報を絞りつつ〈驚くような展開〉があることを匂わせて期待感を煽る「ティーザー」を仕掛けているのかもしれない。
『スター・ウォーズ』や『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ:エンドゲーム』はじめ、ハリウッドのブロックバスターがよく行う手段だ。
それかもしれない。
例えば、『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』の公開前。監督のルッソ兄弟は、「衝撃に備えてください」という言葉をソーシャルメディアに流し、ファンにある種の「覚悟」を迫った。マスメディアはそれを取り上げて、映画への期待、それ以上に不安が世界のファンを覆った。
この焦らす手法を採用し、宣伝しているのかもしれない。
だとしても、「匂わせ」「じらし」の何らかのインフォメーションは出すべきである。
この地雷手法に業を煮やしたのか、一部のヤマトファンが、ソーシャルメディアで宣伝活動をしているものの、拡散も炎上もないのが現状だ。
『宇宙戦艦ヤマト2199』で拡大した『ヤマト』のマーケットだが、『宇宙戦艦ヤマト2202』の失敗で、マーケットは縮小してしまった。


2)人手不足・カネ不足で情報発信ができない可能性

『ヤマト』の制作会社(「ボイジャーエンターテインメント」だったか)が人手不足、社員の能力が低いなどの理由で、作品に関する情報の更新に手が回らない。
なので、情報発信もままならないという可能性がある。
カネがなくて、宣伝を委託しているPR会社もしくは広告代理店、ウェブ制作会社に発注ができない。
宣伝を委託する外部会社と揉めていて情報の更新が止まっている。
たとえば、不払いが原因で。
『ヤマト』は旧作時代から金銭トラブルが多かった。養子となって権利を引き継いだ人も、その悪しき習慣をも継承したのだろうか。

カネを使った宣伝ができないとしても、公式ウェブサイト更新やSNSを使った情報発信はできると思うけれども、していない。
ネットを使った宣伝施策に懐疑的なのかもしれない。
ボイジャーエンターテインメント株式会社のあまりにも味気ない企業ウェブサイトを見ると、そんな気もする。
「製作委員会」には広告代理店やら他の企業のマーケティング専門家などが参加していないんだろうか。

3)制作延期もしくは制作中止になった可能性。

『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』と『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』制作中止、または延期が検討されているか、すでに決定している。

その可能性は高いと思われる。

秋もしくは冬の公開が決まっていたとすれば、アニメ制作が要する期間から考えると、かなり制作が進行していたはずである。
制作が中断したら、制作再開後の見通しや公開スケジュールの見通しなど、何らかのインフォメーションがあってもいいと思うが、2020年7月末時点でそんなものは公には出ていない。

1月中旬に始まった新型環状肺炎ウイルスの感染拡大。
日本もその例外ではありえず、アニメ業界も大きな影響が出た。海外依存度の高いアニメ制作、声優が集まることが濃厚接触となるアフレコなどがストップし、1月放映のTVアニメの放送休止および中止や延期が続出した。

当然、4月・7月・10月放映開始予定のアニメ制作にも大きな影響が出ている。

2−5月の「自粛」により、アニメの製作時期がずれ込んで、おもにテレビ放映の作品の放映/配信/公開時期が変更された。

新型コロナウイルス情勢・対応

アニメ制作の時期のズレによって、作品によってはアニメーターを確保できない作品も出るだろう。1月・4月に放映するはずだった作品の制作が遅延した影響で、夏、秋、冬、2021年以降の作品もスタッフの確保、スケジュールづくりに苦労している。
では、『ヤマト』はどうなのか。
インフォメーションがないので、楽しみにしている人は不安だろうと思う。

新作『ヤマト』がどこまで制作が進んでいるか、新型コロナウイルスの影響をどの程度受けているのか、さっぱりわからない。

4)「ヤマトマーケット」縮小により、制作中止の可能性。

この作品の制作中止と予想するもう一つの理由は、『宇宙戦艦ヤマト2202』が引き起こしたヤマトファンの大量離脱の影響である。
『宇宙戦艦ヤマト2199』のファンを引き継げず、ファンが離れた。

『宇宙戦艦ヤマト2202』は「あさって」に行ってしまった作品である。

ヘンな紋様がついた戦艦やダニのようなパワードスーツやヤマト型でセンス最悪の「銀河」とかメカの描写に時間が使われてストーリがそのぶん雑に削り取られてしまった。
人物の描写は、メカ描写に時間が取られたぶん、少なくなった。
少なくなった時間は、新登場登場人物重視に時間を使われて、メインキャラクターの描写が著しく減少した。古代も森雪も真田さんもモブみたいに目立たなくなった。

クライマックスがすごい。
というか、ひどい。

ベースとなった『さらば宇宙戦艦ヤマト』の超巨大戦艦への特攻・散華エンディングを、〈高次元世界〉だかに突入というスピリチュアルな場面に書き換えるという、ヤマトファンが想像もしなかった地平に到達した。

『宇宙戦艦ヤマト』旧シリーズは『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』が43億円の興行収入。これが興行のピークで、続篇は動員が減っていった。『宇宙戦艦ヤマト 完結編』の興行収入は17.2億円。
『完結編』から26年後の2009年に公開された『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』は興業的に惨敗を喫して興行収入は3.9億円。

『宇宙戦艦ヤマト2199』は
「イベント上映」「パッケージソフト(Blu-ray)「TV放送」「配信」と順次展開してトータルでは100億円を超える経済効果を生み出した。
旧シリーズで離脱したファンが戻った。

しかし、『宇宙戦艦ヤマト2202』では離れた。
DVD/Blu-rayの売上は『2199』から半減近くとなり、プラモデルの数はとても少ない。
『ヤマト』にカネを使ってくれるお客さんが減ったのだ。
普通、こういった場合にはマーケットリサーチをして、新作にGOサインは出さないと思うが、製作者たちはヤマトファンからまだ搾り取れると判断したようだ。
『宇宙戦艦ヤマト2202』『宇宙戦艦ヤマト2205』は新しいファンがほとんどいない、旧作からのヤマトファンの一部の人々に支えられる作品である。
何年かのちには、ファンがいなくなる、時限マーケットによって成り立つ作品だ。
コロナ禍の影響や、「製作委員会」参加企業が減った、なにより想定できる顧客=ヤマトファンの影響を鑑みての「制作中止」もあるのではと予想する。

とはいえ。
『宇宙戦艦ヤマト2205』がきちんと公開されたらいいですね。
続くのは『ヤマトよ永遠に』『完結編』『復活篇』のリブート、『復活篇第2部』なんですから。それまでヤマトファンが存命かどうか、わからないけれども。
『ヤマト・ビジネス』は新規顧客がいないので、既存客からふんだくるだけふんだくるビジネスなのだ。「『ヤマト』にカネを使うのは税金と同じ」などというファンがいるかぎり、ある程度儲けることができるんだろう。

ああ楽しみだな『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』。

2020/07/17

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』有料配信とアマゾンレビュー。

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』のネット配信代金がとても高い。

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』のネット配信には「セル版」と「レンタル版」がある。

これは「セル版」と呼ばれるものである。
動画ファイルを買ってダウンロードして視聴できる。
シネコンで2週間限定上映されたもので、DVDやBlue-rayから特典映像を外している。
初回はTVシリーズ2エピソード、2巻から7巻までは4エピソードがパックされているもので、1巻につき2,700円で、全部見ると2,700×7で18,900円する。




一方、レンタル版という視聴期限がある方は1エピソード220円、26分のシリーズ26本で5,500円だ。

高い。
暴利である。

商売のしかたが違うとはいえ、NetflixならばHD画質で月額1,200円、4Kでも1,800円でラインナップ作品をいくらでも視聴できる。
しかも中には『宇宙戦艦ヤマト2199』も含まれている。

そう考えると、アニメ単独作品の配信で、これは高すぎる。
しかも、質が高いとは言えない作品である。
ヤマト伝統の高額値段設定という、攻めの姿勢がここにも見られる。

何を行ってるやがるんだこの貧乏人めそのコンテンツに価値があると認めたら18,900円でも5,500円でも安いぞおれなんて2週間日昼メシ抜いたら余裕で見られるぞ安いもんだ。ヤマト最高だぞおまえただしイズブチの2199は除いてだがな。
という人もいるだろう。








『宇宙戦艦ヤマト』とネット配信というのは、なんだかそぐわないような印象がある。
作品のコアな顧客層からすると、Blue-rayとDVDで見るのが本道だろう。

『復活篇』からは、続篇を願ってひとりで何枚も買うという人も出てる。そういう奇特もしくはバカで従順なファンの大量購入に支えられてこその『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』ではないのか。

2020/07/16

Jホラー|経営破綻した病院と謎の感染者と怪異 落合正宗『感染』

救急車が患者の搬送中で、受け入れてくれる病院を探している。

なんだろうか、この映画は。
と、見始めの部分は首を傾げた。

レンタルDVD屋でジャケットに惹かれるものを感じて借りた。

さして予備知識はなかった。
「予言」という、つのだじろう先生の「恐怖新聞」を基にしたホラーと2本立てで公開された映画だったというのを覚えていた程度だった。

公開時には見に行かなかった。





2020/07/15

西崎義展と宇宙戦艦ヤマト Part1

西崎義展と宇宙戦艦ヤマトについて、色々なテキストや数々の発言から拾ってみる。
このページは、個人的な備忘録である。
予め、予告しておくが、文字量はバカみたいに多くなると思う。

西崎義展がどういう人であったかの一端を覗き見たいと思ったので、検索で西崎義展とヤマトについて書かれたテキストを集めてみた。それを「カットアップ」で再構成しようとお思っている。
カットアップは、フレーズをバラバラにして組み立てなおす、執筆や音楽制作で用いられる手法の一つである。





まずは、放送の2日前にラジオドラマ版「宇宙戦艦ヤマト」のシナリオ執筆を依頼された藤川桂介氏のおはなし。
ラジオドラマ版は、4時間に及ぶ生放送だった。

魔法のクスリ

○藤川桂介、西崎義展を語る

「宇宙戦艦ヤマト」の映画での大ヒットに目をつけて、ニッポン放送では、そのラジオ・ドラマを生放送しようという企画を持ち込んできました。
いつものことでしたが、話が決まってぼくに脚本の依頼があったのは、実に放送の二日前といった状態です。
かつてラジオ・ドラマを書いていたとはいっても、無茶苦茶な話です。
しかしこんな切羽詰まった状態で、あの膨大な話を、すぐにまとめられるのはぼくしかいません。結局引き受けざるを得ませんでした。

ストーリーの全容は熟知しているので、全体像をきめることは、そう難しいことではありませんでしたが、それでもいよいよ脚本を書く状態になったのは、午前二時近くになってしまっていました。
それまでさんざん打ち合わせをしてきているので、疲れも極限にきていました。
いよいよ執筆というところまできたところで、睡魔が襲い始めたのです。
「もう駄目だ」と思いました。
実はここへ入るとき、プロデューサーのN氏が、
「眠くなったら、これを飲んでください。おまじないです」
小粒の錠剤をひと粒渡してくれたんです。
ぼくはそれを、コップに注いだ水と一緒に置きました。
「怪しけなものではないのか?」
&そんな不安があって、それを呑むことに躊躇しました。しばらく睡魔と、白い錠剤とのにらめっこがつづきました。しかし原稿を書こうと思っても、ただ眠くなるだけです。ついにぼくは決心をして、その「おまじない」を飲み込んだのでした。

あーら不思議。それから数分も経たないうちに、睡魔からも解放されて、妙にうきうきとしてくるのです。もう午前三時は間近。ぼくは夢中で書き始めました。一気に書いて、ついに約束の午前八時には、原稿を持ってロビーへ下りて行ったのです。

それにしてもあの魔法の錠剤は何だったのでしょう。
一説では鬱病の薬だということでしたが??

藤川桂介 『アニメ・特撮ヒーロー誕生のとき ウルトラマン、宇宙戦艦ヤマトから六神合体ゴッドマーズまで』 ネスコ、1998年




宇宙戦艦ヤマトの堕落史6|宇宙戦艦ヤマト 復活篇

「宇宙戦艦ヤマト 復活篇」は、カルト映画になりそこねた映画である。

カルト映画足りうる条件は備えていたはずだ。

ひどい出来で、期待されたほどのヒットもしなかった「宇宙戦艦ヤマト 完結編」から26年を経て登場するという無意味さ。
旧作のタッチとも違う、アップデートしたつもりが時流に全く合わないキャラクターデザイン。
センスがまるで感じられないCGの使い方。
劇場アニメだというのに、80〜90年代の濫作期のアニメのように破綻した作画。
底が浅くてご都合主義のストーリー展開に、意味のない自己犠牲の特攻。

惜しい。

一人合点して勝手に特攻して華と散る人間が立て続けに登場するあたりは、「頭が悪い映画」として少し期待したのだがなあ。
全部中途半端で、「底抜け映画」になるという華々しい破綻はなくって、ごくありふれた「失敗した映画」で終わってしまった。






これは、今回の敵役SUSの生命体である。
「異種異根の生命体」と言っているのに、このていどのイマジネーションなのだ。
弾けていない。
まったくもって弾けていない。
しかもこの魔神のできそこないみたいなやつは、長々と「ストーリーの説明」をするためにでてきただけなのだ。

2020/07/14

『宇宙戦艦ヤマト2202』│暗愚の教祖とファンとの共依存

『宇宙戦艦ヤマト2202』は酷評の嵐にもかかわらず、Blue-rayとDVDは『宇宙戦艦ヤマト2199』の半分くらいの枚数は売れたという。

当初、『宇宙戦艦ヤマト2202』は『さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち~』および『宇宙戦艦ヤマト2』のリブート作品と称していた。

1978年の旧作品を見て熱狂的に支持したファンが観て、版権商品に多額のカネを使ってくれることを想定して企画された作品だ。
40年前の熱狂再び、と製作者は考えていたようだ。
正しくは、40年前のような〈ボロ儲けよ再び〉だ。
それは虚しいこととなったが、そこそこの売上は確保できているらしい。

『宇宙戦艦ヤマト2202』は、Blue-rayやDVDを中心にプラモデルや書籍などの版権商品で儲けを確保しようというビジネスをしている。

Blue-rayとやDVDを買うという消費行動は、中高年が好むものになってしまった。
深夜アニメ放映→DVD購入(作画崩壊部分の修正や特典映像あり)というビジネスが確立している。
中高年アニメファンは、好きな作品を、〈形あるもの〉 として手元に置きたいと願う。
「作品を手元に置きたい」古いファンは、Blu-rayやDVDを買う。

中高年以外のアニメファンは、Blu-rayやDVDを捨ててストリーミングへのシフトが進んでいる。スマホでも液晶テレビでもパソコンでもネットにつながる環境で、好きな時間に鑑賞する。
中高年以外のアニメファンは、Blue-rayやDVDを買わなくなってきた。

したがって、『宇宙戦艦ヤマト2202』は、ほとんどのアニメファンには見向きもされていない。
大多数のアニメファンは、そんな作品があることすら知らないもしくは関心がない。
ほかの新作アニメを観るのに忙しい。

『宇宙戦艦ヤマト』は、「地球を救うという大いなる使命のために旅をして、苦難にあっては命さえ投げ出すことを厭わない英雄たちの物語」という古典的なストーリーである。
世界を救うという〈大きな物語〉は、いまアニメを観ている若い世代には人気がない。
あまりに古くさくて、見向きもしない。
コアなアニメファンがお客さんにならないのだ。
そんな『宇宙戦艦ヤマト2202』がマーケットを形成するには、オールドファンが好んで観るような内容にするのが正解である。
マーケティングをきっちり行ったとすればその方法しかない。

アニメのマーケットは、世代別・嗜好別にセグメンテーションされた小さなマーケットがたくさん生まれている。
その総体としてはかなり大きなマーケットになっている。
『機動戦士ガンダムUC』や『宇宙戦艦ヤマト2199』という、比較的高い年齢層をターゲットにしたアニメが大きなビジネスとなり、高齢になってもファンが 離脱しないでマーケットを形成することもわかった。

『宇宙戦艦ヤマト2202』は、懐の豊かな高年齢ファンに高額なBlu-rayや模型、書籍を売って儲けるのが商売である。
TVアニメ4話分、約100分の動画をシネコンで上映するのも、深夜のテレビ放映も版権商品の宣伝をする方策にすぎない。

『宇宙戦艦ヤマト2202』は、ターゲットとなる往年のヤマトファンの評価は芳しくない。
現時点で、『宇宙戦艦ヤマト2202』は『さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち~』・『宇宙戦艦ヤマト2』のリブートとは呼べないものになっている。

いや、はっきり言って『宇宙戦艦ヤマト2202』は酷評が多い。
Yahoo!の映画レビューやAmazonのレビューにはこの作品の瑕疵を指摘する文字量がかなり多い投稿が、たくさん見つかる。

にもかかわらず、Blue-rayとDVDはある程度売れている。
『宇宙戦艦ヤマト2202』のBlue-rayとDVDを購入するのは40代以降のアニメファンである。

このことから、『宇宙戦艦ヤマト2202』ファンの中には、
内容を酷評しているというのにもかかわらず、Blue-rayやDVD、プラモデル、書籍などを買っている。

という、理解できない行動を取っている者が少なからずいたと推測される。
「ヤマト」を深く愛するひとびとの、愛の証なのだろうか。

一部の『ヤマト』ファンの忠誠度の高さは、じつに驚くべきものだ。

愚作にして失敗作としか言いようがない映画『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』のBlu-rayやDVDを購入して、続編制作を支援するのだ、わたしはもっともっとヤマトが観たいなどと訴えたりした。
高いBlue-rayをひとりで何枚も買ったりしている者もいた。

彼らは『宇宙戦艦ヤマト2202』でも同じようにお金を使っているのだ。

『宇宙戦艦ヤマト2202』は、本来は無料で行うはずの試写会を「イベント上映」として金を取り、配信は他の作品よりも高い金額に設定し、ファンクラブも3グレードの有料制度を設けるなど、とにかくファンからおカネを取ろうというのに熱心だ。
で、喜々として払う人間が一定の数、いるのだ。

この状況は、新興宗教を連想する。
教祖と熱狂的な信者の関係を思わせる。
教祖は信者を罵倒する。 お前らはなにもわかっていない。
お前らはゴミだ。クズだ。
ヤマトに対する信心も修行も足らない。
反省せよ、反省して修業に励み、真理に到達せよ。
お布施せよ。
お布施して徳を積むのだ。
そのために、本を買って読め。
何冊も買って、周囲の者に配って広めよ。
セミナーに参加して学べ。
ご本尊を分けて与えよう、飾って拝め。

お布施や本は、マーチャンダイズ商品である。書籍、プログラム、Blu-ray、DVDである。
セミナーは、映画館でのイベント上映で、会場では割高な価格に設定されたグッズが売られている。「先行特別Blu-ray」

そして、信者は喜んで金を出して商品を買い、教祖の歓心を買おうと試みる。
教祖は信者をバカにし、罵倒してカネを収奪するのだ。

『宇宙戦艦ヤマト2202』には、「副監督」という奇妙なクレジットがある。
天下の副将軍・水戸光圀あたりが発想のもとだろうか。

副監督と称してはいるものの、事実上作品の最高権力者であるようだ。

新興宗教の教祖のような尊大な振る舞いをしているのがたいへん興味深い。


Twitterで、副監督はヤマトファンを中心にして気に食わない人や、意見が合わない(とかれが判断したらしい)人たちをブロックしまくっている。
副監督はもともとはプラモデルを作る人で、のちにアニメのメカデザインなどを手がけるようになったらしい。
名前を入れて検索してみると、9割くらいの意見はネガティブだ。
最近は経文を取り入れたデザインが好きらしく、『宇宙戦艦ヤマト2202』にも登場させている。

自分が読みたくないアカウントを予防的にブロックした上で、オールドスクールなネトウヨ妄言をリツイートしたりしている。
注目すべきなのは、本人はプロモーションのつもりらしいネタバレをTweetしたり、古くからのヤマトファンや旧作品のスタッフを罵倒したりしている点。

意見する古参ヤマトファンに対して、「老害は見るな」内容を批判するツイートには「嫌なら見るな」と描いてクリエーターとしての立場をとっくの前に放棄している。
クリエーターである前に人さまにお金を出してもらって成立する商業作品に関与する人間としてアウトである。
愚かなことだ。
頭の中の詰めものが圧倒的に不足している。

自分の配下においたスタッフは名字を呼び捨てで書き、距離のある、もしくは気に食わないスタッフは担当する役職で書く。
だまっておれの作っているヤマトを見ろ。
嫌なら見るな。
ただし、Blu-rayや模型は買え。たくさん買え。


それに付き従っておカネを使うファンがいる。
驚きである。




多くの人が制作に関与する商業作品として制作されているものが、個人的な思惑で改変ができるものなのか、という疑問はあるが、状況証拠から『宇宙戦艦ヤマト2202』は副監督が仕切っていると思われる。
別に製作する人間の人品骨格などどうでもよいお話であって、面白い作品を作れば問題はないのだ。
これがクリアできていない。
ものすごくつまらない。

創り手の基本的教養も良識も持ち合わせていない底の浅さ、物語を作るプロとしての実力のなさ、自分の願望で作品世界を改悪する浅ましさがはっきり見て取れるシロモノになってしまっている。
このひとのツイートやブログを読むと、日本語がまともに使えないのがよくわかる。
言語がまともに使えない、すなわちコミュニケーションができない人間が制作の実権を得てモノを作るとどうなるか。

その結果が、『宇宙戦艦ヤマト2202』である。

あれは模型が好きという以外に取り柄もなくて対人コミュニケーションに問題があり頭も良くない偏屈な男がいる。
それが『宇宙戦艦ヤマト2202』で自分の意見が反映できる立場となった。
それで自分のデザインしたメカを大挙登場させ、支離滅裂な妄想を無理やり入れてみた。
作品には元作家がシリーズ構成で入ったが、それをぶっ壊して自分の好みを絵コンテでねじ込んだりしていたという。
かつて豊かなアイデアを取り入れて日本のTVアニメの新しい領域を切り開いた作品の名を冠する作品は、愚作と成り果てた。

『宇宙戦艦ヤマト2202』に宗教的なモチーフが散見されるのは興味深い。
仏教系国粋主義の宗教団体の信者が制作スタッフにいるのかもしれない。
それも、決済権のあるスタッフに。


オールドファンは、『さらば宇宙戦艦ヤマト』リブートに希望を抱いていた。

『さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち~』は、熱狂をもって支持された。

この映画は、古典的な〈愁嘆場映画〉〈お涙頂戴映画〉だった。
映画で感動させるのなら、主役かそれの周囲の人物を殺すもしくは自己犠牲の末に散っていく様子を描けばいい。客が勝手に泣いてくれる。
大衆演劇から映画に受け継がれた作劇は150分のアニメ映画にも使われた。
この(何の工夫もない)ベタな内容がファンを魅了したのだ。
<感動しなければならない空気>のようなものが上映映画館には漂っていた。
映画を基にしたTVシリーズ『宇宙戦艦ヤマト2』は、映画の余熱で視聴率が好調だった。作画レベルも低く、ストーリーも映画版をおそろしく希釈した作品だったにも関わらず。
ブームとはすごいものだ。

そして時は過ぎて『さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち~』にリブートの時が来た。
せっかくのリブートの機会なのだ。質が高くなっていることを望んでいたはずである。
『さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち~』および『宇宙戦艦ヤマト2』は質が低いアニメだった。シナリオには瑕疵があったし作画もレベルが低かった。彩色のミス、セルの傷やテカリも盛大に目立っていた。
画が美しく、タッチが統一され、デッサンが狂わず、よく動くアニメ。
かっこいい戦艦のデザインと戦闘シーン。
大枠を変えずに面白く、鑑賞に耐えうるストーリー、人物造型。

そういった期待は潰えた。

動かない・時々デッサンが狂う・人物アップの口パク多用。
『2199』の映像使い回し。
それらから見て取れる、「金のかかっていない、安っぽさ」あふれる映像の出来。
センスを疑わざるを得ない、メカデザイン。
旧作デザインの悪趣味な改変。
コピー・アンド・ペーストCGで安っぽいメカ描写。
作画スタッフも、CGを手がけるスタッフも。上手な人は少ない。
予算も充分かけていないことが見て取れる。
ストーリーが面白くない。
登場人物が誰も立っていない。

だが、それでも彼ら彼女らはBlu-rayやDVDを買った。
希望が叶うことを祈りながら。

希望とは、次なる新作『宇宙戦艦ヤマト』が世に出ることである。
次こそは〈面白いヤマト〉、まともな〈ヤマト〉が見られますように。
そう願って『宇宙戦艦ヤマト2202』にカネを使う。
そのように感じられる。

客の数は減少したが客単価は上昇して、いちおうの経済的な成果を得てはいるようだ。
すなわち、少なくなった客から多額のカネを吸い取っているのだ。
いや、一部喜々としながらカネを差し出している連中がいるのだ。
少なくなった客からできるだけ多額のカネを引き出したい制作者と、それに従うようにカネを出す『ヤマト』のファン。
相互に補完する関係性が生じているのだ。

先に「新興宗教」で例えてみたが、これは「ストックホルム症候群」で例えることができるかもしれない。
乱暴な制作者にひどいデキの『宇宙戦艦ヤマト2202』を押し付けられるばかりのファンは、ひどい作品世界に恋々としている。
『宇宙戦艦ヤマト2202』を酷評したり、『宇宙戦艦ヤマト2202』にカネを使わなかっりしたら、ヤマトは終わるのではないかそうしたらわたしの理想とする『ヤマト』の新作は観られないのではないか、などと思っているファンが居るのかもしれない。
ひどい作り手を容認するばかりか、共感を抱いて同調してしまう。

すなわち、囚われている。
ドメスティック・バイオレンスの結果、暴力依存になるような状況と似たような様相なのではないか。




ファンからカネを吸い取ることにしか興味がないプロデューサー、そのプロデューサーの歓心を得て(いるらしい)、愚作を作る模型屋。
模型屋は、観ている同世代のファンを馬鹿にしつつ、金を出せよと強要する。
何という奇景だろうか。

『宇宙戦艦ヤマト2202』で見切りをつけたファンも多いだろう。『ヤマト』のファンは、今後、ますます減るのは確実だ。
上述のように、カネを落とす『ヤマト』ファンは可処分所得の大きい、鷹揚なファンは残っている。
彼らの数を減らさないということで、『ヤマト』ビジネスは成立する。
映画『さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち~』は400万人が鑑賞した。
その0.5パーセントの人々が高額なBlu-rayやマーチャンダイズ商品を購入している。

仮に続編ができるとして。
『宇宙戦艦ヤマト2202』でファンがますます少なくなったとしたら、作品はどうなるのか。
まず、予算はない。
予算はないが、Blue-rayや配信料金は、客単価を上げるために高額になる。
予算がないので、才能のない人しか制作に参加しない。少ない制作費だから、とうぜん、アニメとしての質はさらに低下する。

それでも、ファンは支持するのだろうか?

まことに不幸なことと言わざるを得ない。





ヤマト誕生期の熱気、そして堕落へ。 豊田有恒 「宇宙戦艦ヤマト」の真実

豊田有恒の新書『「宇宙戦艦ヤマト」の真実ーいかに誕生し、進化したか』を読んだ。



豊田有恒は、『宇宙戦艦ヤマト』放映当時、気鋭のSF作家として、また、古代史にも造詣が深い作家として人気があった。
ストーリー原案およびSF設定を受け持った立場からの視点で、本邦初の本格的宇宙アニメ、もしくは映像のスペースオペラ作品がどんなふうにできたかを描いている。

『ヤマト』の〈地球を救うために広大な宇宙を旅して帰還する〉というストーリーの骨格は、SF作家の大御所・ロバート・A・ハインラインの『地球脱出』と、ご存知『西遊記』を基にした。

豊田有恒は『ラジェンドラ6』という物語を考えた。

ラジェンドラは地球に攻め入り、自分たちが居住地とするべく、放射能で汚染した。ラジェンドラの生命体は放射線の環境下で生きるのだ。
惑星イスカンダルは地球に放射能除去装置を提供するという。
地球人たちは、小惑星に偽装した宇宙船『アステロイド6』で旅立つ。宇宙空間を一気に飛び越える「ワープ航法」を駆使してイスカンダルを目指す。
『ラジェンドラ6』は、海底に眠る戦艦大和を宇宙戦艦ヤマトに改造するという松本零士のアイデアを得て、『宇宙戦艦ヤマト』となった。
ラジェンドラの正体については驚くべき秘密があるのだが、それはアニメでは採用されず、石津嵐の小説『宇宙戦艦ヤマト』やTVシリーズを劇場版に編集した映画第1作の当初のバージョンに反映されている。
ラジェンドラは松本零士の参加を得てガミラス帝国となる。
豊田有恒は、松本零士を「おおよその原作者」と評し、裁判の判決が真実と異なることもあると書いている。

豊田有恒は『さらば宇宙戦艦ヤマト』以降、『宇宙戦艦ヤマト 完結編』までSF設定に関与し、重核子爆弾、地球に水をもたらした水の惑星アクエリアスなど、各エピソードのコアとなるアイデアを提供した。
ネーミングでは、歴史に想を得たものが多いと明かす。
例えば、星の名称。アレクサンダー大王から「イスカンダル」、中東の氷菓子から「シャルバート」などである。

スタッフの無理解で、アイデアがうまく活かされないことも多かった。
『さらば宇宙戦艦ヤマト』の白色彗星は、もともと「白色矮星」だった。白色矮星は寿命の尽きた恒星の最後の姿である。恐るべき重力を持ち、周囲の天体を破壊す呑み込んでいく。豊田有恒の出したアイデアは、白色矮星を武器とする星間航行種族が太陽系に攻めてくるというものだった。
知っての通り、白色彗星という、科学考証もへったくれもない、わけのわからないものに改変されてしまった。

豊田有恒はその戦犯を明示していない。しかし、アイデアキラーと思われる人物について極めて辛辣に書いている。

西崎義展である。

『ヤマト』の企画を成立させた稀有なプロデューサー。

人たらしの才能があり、相手を丸め込んで『ヤマト』の生み出すカネと権利ををほぼ独占して蕩尽した怪物。
クリエイティブな才能はないが、〈自分が創ったことにしたい〉という自己顕示欲が人の姿をとった存在。
運転手付きリンカーンコンチネンタルに乗り、豪華なクルーザーを買い、武器も買い、赤坂で豪遊し、何人も愛人を囲い、何百億ものカネを使い果たしたあげく覚醒剤に手を出して捕まり、服役した。




豊田有恒はこの本で『宇宙戦艦ヤマト』から『宇宙戦艦ヤマト 完結編』まで関わって設定を作ったことを語るが、作品については一切論評していない。
スタッフとして『ヤマト』を作った松本零士、宮川泰、藤川桂介、スタジオぬえ、出渕裕などの「同志」的な、さらには〈西崎義展被害者の会〉的なつながりを書いている。
出渕裕はSFファンとして豊田有恒とはかねてより交流があった。
豊田有恒は、出渕裕が『宇宙戦艦ヤマト2199』 を手がけるにあたり、松本零士に対して名前をクレジットできないことについて謝罪をしたことを明かしている。

豊田有恒のアイデアは今読んでも色褪せないおもしろさがある。

豊田有恒や松本零士が作ったアイデアに立ち返って、『宇宙戦艦ヤマト』リメイクしたら面白いんじゃないだろうか。
『さらば宇宙戦艦ヤマト』『宇宙戦艦ヤマト2』のリブート作品が作られたが、一部のファン以外は全く関心も示さずに地味に消えてしまった。
これを中止して、『宇宙戦艦ヤマト Naked』とでもいうべき、初期アイデアに基づいた古くて新しい『宇宙戦艦ヤマト』が観てみたい。



2020/07/11

自称すれば誰だって「映画監督」なのか?

名刺を渡される。

肩書の箇所に「映画監督」と極太明朝体で書かれている。

失礼ですが、どういう作品をお撮りなんでしょうか?わたくし、映画に明るくありませんもので、ご教示いただけませんか。
すると、彼は胸を張って言う。

はい、現在企画進行中で、これから撮ります。映画館でぜひご覧ください。ご覧いただいたらメールでもなんでもいいですから、

それから幾年月、彼の映画が劇場で公開されたとは聞かない。
彼の消息も知らない。

映画監督とは自己申告の職業である。
その人が映画監督だと名乗れば、映画監督なのだ。

映画監督とはなんなのか。
「自称」ではなくて、客観的に認めうる基準というのは何だろうか。

レンタルDVD用。ついでに販売もしているような「貸しビデオ屋用ビデオ映画」の演出をしているひとが、おれは映画監督だ映画を撮っているおれは奇才であると言っているのに、なんというか違和感を覚えるのだ。