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2017/12/24

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』は革命的アニメだ(といいな)

ときどき、レベルの高いアニメにでくわす。

『血界戦線 & BEYOND』、『いぬやしき』など、TVアニメ、それも深夜枠なのに驚くほど質が高いモノを観ると驚きを禁じ得ない。
画が美しくてよく動く。
声優も豪華なキャスティングだ。
テレビをつければ無料で観られるアニメなのに、びっくりさせられるデキだ。
よく動くアニメを視聴するのはほんとうに楽しい。快感である。

で。

Amazonビデオで、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第3章・純愛篇を観た。
これ、3,888円も取られるのだ。
TVアニメはTVをつければ無料で観られるのに、TVアニメ4本分で安くても3,800円。映画2本観るのよりも高いではないか。
イベント上映時に映画館で特別販売されるBlu-rayが1万円以上もする。
Amazonで買える、市販バージョンで7063円である。Amazonは値引きされて売られてるので、店で買うともう少し高い。

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』は、TVシリーズ2クールに相当する26本を7回に分割してシネコンで上映する形式。「第3章」で、TVでいうと10話まで上映された。

これは正式な映画興行とは異なるので、「イベント上映」と呼ばれる。
サッカーのパブリック・ビューイングや歌舞伎、演劇の中継、漫才、プロレスなどを大きなスクリーンを使って行われる「イベント」と同じように、TVアニメ(のフォーマットで制作されたアニメを)上映するというイベントだ。
アニメ作品でBlu-ray・DVDの販売促進を狙う方式は『機動戦士ガンダムUC』が始めた。
約1時間の作品を上映し、シネコン限定の先行販売Blu-rayを販売する。
珍しさもあってか、あるいはネットの評判が良かったのか、集客できた。
作画の質が高い。TV用のアニメとは一線を画し、これまで「劇場版」として作られた様々なアニメ映画の作画の質を、もしかしたら凌駕するくらいの質の高さだった。大きなスクリーンで観るに足るものだった。
それが評価されたからか、Blu-rayやDVDがよく売れた。
同じ手法を取った『宇宙戦艦ヤマト2199』もたいへん丁寧に作られていて、休眠状態にあった『ヤマト』ファン、もしくは『宇宙戦艦ヤマト復活篇』を観て失望したファンたちを覚醒させ、購買行動に走らせた。

この手法を踏襲しているのが『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』。

しかし。

視聴して驚きを覚えたのである。



何を言いたいか。
『宇宙戦艦ヤマト2202』はまことに驚くべき作品だ、ということである。



革命的と言っていい作品なのではないだろうか。








2017/12/11

そもそもスター・ウォーズはおもしろかったか?『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』

まもなく『スター・ウォーズ』の新作が公開される。

ディズニーが『スター・ウォーズ』の権利を買って以来、メインストーリーとスピンオフが交互に上映され、毎年の年末には新作が世界中のシネコンのスクリーンを占拠するようになった。
そのうち、寅さん映画のように長大なシリーズになるかもしれない。

今年は、メインストーリーのエピソード8。
ルーク・スカイウォーカーか、エピソード7からの主役らしい、レイのいずれかが暗黒面に堕ちるぽい宣伝をして煽っている。





そもそも『スター・ウォーズ』はおもしろいか?
自分に問いかけると、「おもしろくないのが多いですね」と言わざるをえない。

今までに6本、『スター・ウォーズ』の映画はあった。
しかし、面白かったのは最初に公開された『エピソード4 新たなる希望』とその次の『エピソード5 帝国の逆襲』だけではないかというのが個人的な感想。

『エピソード4 新たなる希望』は、冒頭のあまりにも巨大な宇宙戦艦に度肝を抜かれ、スペースオペラが映像化されたという事実に歓喜した。
これまでの映画にはなかった映像の連続に驚きつつも、正統的な冒険物語として楽しめる娯楽映画の王道なのだ。
『エピソード5 帝国の逆襲』は、帝国軍が圧倒的な戦力で逆襲に転じ、ルークやハン・ソロたちは危機に次ぐ危機を切り抜ける、文句なし面白く、感情を揺さぶる展開があった。
ところが。
『エピソード6 ジェダイの帰還』は観ている途中で飽きてしまった。子熊のパーティーを幽霊が見守る場面で目が覚めて驚いたということしか覚えていない。
のちにレンタルで見直してみたら、ダースヴェイダーの中身、アナキン・スカイウォーカーが白塗りのオバケのようで驚いた。

ルークの父の物語は「退屈」のひとことだ。

『エピソード1』から『エピソード3』はいずれも劇場には足を運ばなかった。だいぶ経って1本100円で貸し出しになってからDVD3本を借りてきて再生を始めた。
SFXもVFXも目覚ましい進歩を遂げて、作品世界にもそれが生かされているはずなのに、眠気と戦いながら画面を見て、しかし眠気に負けてついには鑑賞を放棄した。

もともとエドモンド・ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』や『スターキング』のようなスペースオペラは好みだった。
だから、『スター・ウォーズ』の作品世界に没入できないのは好みの違いに過ぎないかもしれない。

『エピソード1』から『エピソード7』、おそらくは『エピソード9』までは、アナキン・スカイウォーカーとルーク・スカイウォーカー、そしてその血を引くものを中心にした〈ジェダイ〉の物語だ。
ファンタジー、宮廷ドラマ、武侠映画、剣戟映画で、どっちかというとヌルい。
尊い血筋の、特別な力を備えた青年が、運命に翻弄されたながらも自立してついには父を殺し、父を超える英雄となる。
神話のない国の神話、英雄譚のなかった国の英雄譚が『スター・ウォーズ』である。

久々復活した『エピソード7』は、飽きさせず見せる映画にはなっていた。
しかしながら、ストーリーが安直。敵の基地に簡単に潜入できたり、手放しで傑作と呼べる映画ではなかった。
登場人物も〈軽さ〉が先に立って浮ついて見える。

『エピソード8/最後のジェダイ』はどうなるのだろうか。
おそらくはルーク・スカイウォーカーから新しい主役たちへのバトンタッチが描かれるのだとは思う。
これは極めて単純な理由で、『エピソード4』以来のお客さんは歳を取りすぎていて、早晩ファンでなくなるからだ。
『エピソード8/最後のジェダイ』は、新しいファンを開拓するものになるだろう。
ディズニーは『スター・ウォーズ』を100年続くような映画にすると言っている。
次なる数十年、『スター・ウォーズ』にお金を使うファンを作る戦略を取るに決まっている。

『エピソード5 帝国の逆襲』を撮ったアーヴィン・カーシュナーのような職人監督と呼ぶにふさわしい力量を持った人であれば、ぬるい貴種流離譚も面白い作品にはなる。
『帝国の逆襲』に匹敵する作品となった『ローグ・ワン』くらいのめり込んで観られる映画になったらいいのに。
ライアン・ジョンソン監督の手腕に期待したい。






2017/12/09

黒沢清『散歩する侵略者』を堪能した。

黒沢清監督の『散歩する侵略者』は、侵略テーマのSF映画である。



われわれは、米で作られる大予算映画に毒されている。
だから、侵略テーマのSF映画というと、人間とは異なる姿をした生命体が襲ってくるだとか巨大宇宙船による破壊であるとか、そういった場面が思い浮かぶ。
大予算を投入したVFXで描かれるのが当然だと思ってる。
しかも、そのたぐいの映画は少なからずあって、食傷気味でもある。

『散歩する侵略者』には、実体を持たずに人間に寄生して意識を乗っ取るエイリアンが登場する。高校生の外見を持つ男女、30代と思われる男の3人で、彼らは侵略のための先遣隊であるようだ。
高校生の外見をもったふたりが侵略の準備を進めている。週刊誌のライターは成り行き上、このふたりに加担してしまうことになる。
一方で30代と思われる男は、妻と過ごしながら変貌していく。

エイリアンは、人間から〈概念〉を学び、〈奪う〉。
〈概念〉を奪われた者が混乱する様は、とても面白い。
「自分」の概念を奪われた刑事、「仕事」の概念を奪われた広告会社の経営者など、その混乱ぶりは観ていて楽しい。





黒沢清の描く〈世界〉は静かななかにどこか不穏さを漂わせているシチュエーションが多く、目が離せなくなる。

『回路』では死人たちがインターネットを通じて死の世界から帰ってくる。
死人たちが帰ってきて、世界はしたいに荒涼を喪って荒涼となる。
『叫』では東京の湾岸地区を舞台にして、開発中のエリアの荒涼さが際立つ。
そこに出現する赤い服の幽霊。
『アカルイミライ』では、ホームドラマにしか見えない。なのに、あちこちに不穏さが隠されている東京。
『リアル~完全なる首長竜の日~』では非現実的な夢の空間とそこにいるフィロソフィカル・ゾンビの不気味さに驚く。

また、黒沢清の映画では、〈唐突〉も必ずあって、今回もまたそうだった。
あっ!と叫んでしまうシチュエーションが必ず用意されている。
今回のもやっぱり叫んでしまった。

黒沢清の映画を堪能したあとは、決まって自分がいまいる世界へ疑いを感じずにはいられなくなる。

『散歩する侵略者』もまたそうだった。
この映画の登場した侵略者がいてもおかしくはない。

しかし、もうひとつ、今回見終わって感じたことがある。
この映画の終局は悲しく、とても美しく、かすかな希望があった。
この映画は、壊れかけた夫婦の、再生のお話でもあるのだ。

必見である。