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2016/09/30

『宇宙戦艦ヤマト』の宇宙はとても変だ!

『宇宙戦艦ヤマト』における<宇宙>について考えたい。

『宇宙戦艦ヤマト』の最初のテレビシリーズでは、はるか14万8千光年のかなたにある未知の惑星・イスカンダルを目指す旅が描かれた。
広大な宇宙を旅し、次々と遭遇する脅威とそれに立ち向かう沖田十三以下、乗組員の奮闘に私は夢中になった。
「ヤマト」は、<強大なガミラス帝国に単艦で挑むヤマトの戦いの物語>がメインであると捉えている人は多いだろう。

そうだろうか。

個人的には<宇宙探検もの>という古典的なSFの風格を備えた物語であることが強く印象に残っている。
わたしはそこに深く魅入られてしまった。『宇宙戦艦ヤマト』で描かれた宇宙は、魅力それまでの国産映像作品には見られなかったものだった。
14万8千光年という気の遠くなるような距離、未知なる驚異に満ちた宇宙の姿、見たことのない世界をしっかりと見せてくれた。

往復29万6千光年の旅の物語は終わった。
しかし、ヤマトはその後何度も宇宙に向かって旅立つことになる。
で、ヤマトが征く<宇宙>の姿は違って見えた。



テレビシリーズ『宇宙戦艦ヤマト』を再編集した劇場版映画が思いのほかヒットし、『さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち~』という続編が作られ、これが大ヒット。で、次から次と映画、テレビ用映画、テレビシリーズの続編が作られた。

西暦2201年、『さらば宇宙戦艦ヤマト』『宇宙戦艦ヤマト2』には「白色彗星帝国」の異名を持つガトランティスが登場した。「白色彗星帝国」の大きさは画面上では一定しないのでよくわからない。設定上も北米大陸くらいだとか、月の半分くらいの大きさだとか、地球の半分くらいの大きさがあるとか、諸説があるようだ。
寸法の設定はあったのだろうけれど、それが徹底しなかったようだ。

同じく西暦2201年、『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』 『ヤマトよ永遠に』には暗黒星団帝国が敵として登場した。
暗黒星団帝国の本星の名はデザリアム星。地球から40万光年の距離にある二重銀河のうち、白色銀河の中にある惑星だ。

西暦2202年、地球は暗黒星団帝国によって占領され、ヤマトの乗組員たちは、真田志郎が小惑星イカロスに秘匿し、改造したヤマトに乗り組んでデザリアム星へ向かう。
デザリアム星は、『宇宙戦艦ヤマト』のガミラス/イスカンダルよりも倍以上も遠くにあるが、波動エンジンが強化されたヤマトは旅の苦労もなく到着。
デザリアム星は当初、200年後(2402年)の地球に偽装し、惑星の外観は元より、スフィンクスや万里の長城などの古代遺跡からクラシック音楽などの古代芸術に到るまで忠実に再現していた。
しかし、新波動砲による艦隊の爆発に誘爆、偽装が剥がれ落ちて、本当の姿が出現する。それは、肋骨の中の心臓のような姿に赤い光が脈打つ、堅牢な装甲を持ったグロテスクな人工天体なのだった。

『宇宙戦艦ヤマトIII』では銀河系はガルマンガミラス帝国とボラー連邦によって二分され、星間戦争のまっただ中である。『宇宙戦艦ヤマトIII』は当初、西暦2205年と設定されていたが、『宇宙戦艦ヤマト 完結編』の制作にあたって西暦2202年に変更された。

『宇宙戦艦ヤマト 完結編』に登場する敵はディンギル帝国。その本拠、ディンギル星は地球から3000光年の距離のアンファ恒星系に位置するという設定である。
銀河系を二分したガルマンガミラスとボラーは、突然現れて消えた赤色銀河が交差したために消滅した後、その影響のなかったディンギル帝国が登場というわけだ。
西暦2220年、 『宇宙戦艦ヤマト復活篇』では地球が移動性ブラックホールによって呑み込まれることがわかり、2万7000光年離れたサイラム恒星系惑星アマールの月への移民が物語で描かれた。
星間連合SUSは、別な次元からやってきた生命体によって主導されている。

『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』から『宇宙戦艦ヤマト復活篇』までの歴史をデスラー視点で見てみる。
西暦2202年、暗黒星団帝国との戦いでガミラス星とイスカンダルを失ったデスラー総統は、ガミラス帝国の再建を目指して第2のガミラス星となる惑星を探す、流浪の旅を続けていた。銀河系核恒星系でボラー連邦の支配下にあったガルマン民族を解放し、独立戦争をガミラス残存勢力で展開する。銀河系核恒星系のガルマン民族を統一し、ガルマン・ガミラス帝国を建国した。
デスラーは銀河系各方面へ侵攻、ボラー連邦と銀河系を二分する星間連合帝国となる。
建国紀元1周年を迎えるが、デスラー個人崇拝を基本とする独裁体制側とマザー=シャルバートを奉じる一部のガルマン人との間には深刻な対立が起こっていた。
弾圧されていたマザー=シャルバート信者が1周年記念祭に乗じて蜂起。
新帝都デスラーパレスは戦場となる。
本星の防空体制もシャルバート信者の自爆テロにより機能不全になった。さらにボラー連邦のワープミサイルによる攻撃で危機に陥るが、ヤマトにより救われる。
ボラー連邦のベムラーゼ首相を太陽系での戦闘で戦死させた後、ボラー連邦に対して一大攻勢をかける。これを銀河大戦と呼ぶ。
西暦2203年、銀河大戦も終盤を迎えていた頃、異次元宇宙から現れた赤色銀河と銀河系の交差により、要部であった核恒星系に甚大な被害を受けたが、デスラー総統と一部の艦隊は辺境視察に出ていたため難を逃れ、ディンギル帝国の艦隊に囲まれるヤマトの救援に駆けつけ、ルガール大神官大総統をデスラー砲で殲滅した。
後年、『宇宙戦艦ヤマト復活篇』の時代となって別の国家群が銀河系中心部の覇権を握ったことから、ガルマン・ガミラス帝国は国家としては滅亡したか、存続していても最盛期の影響力は失われたと思われる。

思い返すと、ヤマトは「未知なる宇宙の驚異」はいずれの作品にあってもナレーションでは語られている。
しかし、続編が作られるに従って、物語でも映像でもそれを感じる場面は乏しくなっていったと思う。
強化した波動エンジンで連続ワープで数十日で40万光年などと説明される。ああ、デウス・エクス・マキナ(ご都合主義)に囚われちゃったなと思う。
宇宙を舞台にしている広大さが感じられない。
そうして狭くなった宇宙を舞台にするヤマトは、どんどんつまらなくなっていった。
しかも、時間の流れが異常。
地球はガミラスの放つ遊星爆弾によって滅亡の危機に瀕していたというのに、その1年後には繁栄を謳歌して堕落し、その翌年には占領され、そのあとすぐくらいに水の惑星アクエリアスに呑み込まれそうになり、17年後には移動性ブラックホールに呑み込まれるのだ。
上述の、ごく短い時間に何度も侵略を受けるせわしさも異常だ。

「ヤマトの世界は、時間の流れが一定しない世界です」などと設定しておいたら、納得はしないけど、説明にはなっていたかもしれないし、面白い物語を提示する鍵になりえた可能性はある。

敵も同工異曲の<宇宙を支配する帝国主義者>が入れ替わり立ち替りの登場だ。
でもって、ストーリーの転換は判で押したように<重要な登場人物が特攻をかけて生命に代えて状況を打破する>だ。

ヤマトはあまりできの良くない「型」もしくはフォーマットに従って雑に作られた作品の集まりなのだとあとで見返すとわかる。





『宇宙戦艦ヤマト2199』を観ると、最近の天文学の成果を踏まえて「16万8千光年彼方の大マゼラン銀河のイスカンダルへ、往復33万6千光年の旅に臨む」となっている。
最初の『宇宙戦艦ヤマト』にあった「未知なる宇宙の驚異」に挑む姿がしっかりと描かれていた。

それがじつに良かった。



 

4 件のコメント:

  1. 初代ヤマトにはヴォークトの宇宙船ビーグル号の様な、宇宙探検ものの雰囲気がありましたねえ。
    第二作以降はそんな雰囲気もなく、宇宙から凶悪な敵が地球に侵攻してくるというお定まりのパターンばかりの駄作ばかりでした。

    初代ヤマトは前衛でしたが、それ以降は寧ろ遅れた世界観で作られた粗雑なアニメだったのですね。

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  2. ヤマトブーム時、小~中学生でしたが、続編以降はただのチャチなドンパチ物になっていくのに興ざめしてたのを憶えています。「新たなる~」では波動エンジンが改良されたとはいえ一瞬でイスカンダルに着くのを見て、「あの14万8千光年の旅はなんだったんだ・・・」と佐渡先生と古代の会話を思い出し小学生ながら愕然としましたよ。戦闘シーンがなくても面白いということに驚きながら、再放送の度(旅)にあの未知の宇宙への旅に引き込まれた、あのセンスオブワンダーがそこにはありませんでした・・・
    2199の新作が今後作られるにしても、氏のおっしゃる通りデウス・エクス・マキナ設定を排し、宇宙の深淵さを醸しつつ未知の世界へ航海していく物語を紡いでいってほしいものです。

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  3. 「続編」にはありがちなんですが、新しく現れる敵が強大になると、正義側/主役も強化されて、敵味方双方がインフレを起こしていくんですよね。
    しかも、お話も雑になっていく一方。

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  4. 襲いかかってくる敵にもアイデアを利用して、例えば降伏の儀式に出てくる象型宇宙人と、人類とは異なるメンタリティを持っているなどとすれば、面白くなったと思いますね。
    他にも単純に力押しではなく、バイオ的な攻撃を仕掛けてくるとか。
    その場合、ヤマトの活躍は期待できないでしょうが、真田氏は大活躍しそうです。
    想像力が欠如している上に、新しいSFも読みもせず、新しい血を入れなかったから全くつまらん続編になったのだと思います。

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