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2016/09/26

『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』シリーズに注目せよ。

事前に何の情報も入れないで、レンタルDVD屋に行く。
面白い作品を捜して借りる。

これは意外と難しいことだ。

見たことのない、面白い映画が観たい。
そう思い立ってレンタルDVD屋へと足を運ぶ。
コーナーを巡っていると、あるタイトルが目に留まった。

『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』

それは「心霊ビデオコーナー」にあった。
同じコーナーにあるのは、『ほんとにあった!呪いのビデオ』などのいわゆる「実話心霊モノ」である。




『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』は、レンタルビデオ店では「ホラー」だとか「心霊」のコーナーに置かれている。

しかし、中身は正しく「映画」である。
それも、相当に面白い映画なのである。
怪しく、怖く、猥雑で、予想もつかない展開があり、驚きがある。




『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』はビデオ制作プロダクションを舞台にディレクター、アシスタント、カメラマンを主役にした劇映画である。
この作品は「実録心霊ビデオ」を装っている。
しかし、その偽装を剥ぎ取ると、<世の中の怪奇現象を追求していくうちに巨大な謎に遭遇するビデオディレクターたちの物語>という骨格が明らかになる。
主人公はディレクター・工藤(大迫茂生)。工藤は、アシスタントの市川(久保山智夏)、カメラマンの田代(白石晃士)とともに、数々の都市伝説や怪奇現象を調査・取材し、その様子をビデオに記録してソフトとして編集して販売している。
このシリーズは彼らの取材する様子をカメラマン視点で追う、POV方式で追った映像作品である。
「POV方式」とは「Point of View Shot」の略で、日本では「視点ショット」「主観ショット」「主観映像」などと訳される。
POV方式の映像作品といえば、「ブレアウィッチ・プロジェクト」や「クローバーフィールド」などがそれにあたる。日本では、「実録心霊ビデオ」でPOVを取り入れた映像が数多く紹介されている。
白石晃士監督はPOVの映画のパイオニアと呼ぶべき存在である。

「戦慄怪奇ファイルコワすぎ!」シリーズは以下の作品がリリースされている。

戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-01【口裂け女捕獲作戦】
戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-02【震える幽霊】
戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-03【人喰い河童伝説】
戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-04【真相!トイレの花子さん】
戦慄怪奇ファイル コワすぎ!劇場版・序章【真説・四谷怪談 お岩の呪い】
戦慄怪奇ファイル コワすぎ!史上最恐の劇場版
戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章

■新シリーズ

戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!FILE-01【恐怖降臨!コックリさん】
戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ! FILE-02【 暗黒奇譚!蛇女の怪】

これだけシリーズが続く理由は、「おもしろいから」。
それに尽きる。

調査を手がけるディレクターの工藤は、短気だ。
頭に血が上ると調査の依頼人でも霊能者でも乱暴なコトバを口にして殴りかかっていく。
ガサツな人物かと思いきや、実際は気が小さくて臆病者で案外繊細。
アシスタントの市川は当初、上司である工藤から理不尽な行為を強要される、弱弱しい女性だった。しかし、彼女は回を追うごとに本性が露わになって、工藤をビビらせるような行動を取る。それがなかなか楽しい。
カメラマンの田代は、監督の白石晃士が演じている。彼も重要な役割を担うことになる。

口裂け女、幽霊、人食い河童、トイレの花子さん、四谷怪談(お岩さん)、タタリ村、コックリさん、蛇女・・・・
工藤、市川、田代は世間を賑わせた数々の怪奇現象や心霊現象に挑む。
「実話心霊ビデオ」では、他幽霊らしきものが映った映像をスロー再生して「これはまさか、ここで亡くなった者の無念の思いが映ってしまったとでもいうのだろうか」などという思考停止のナレーションでもって「怪異」を解説しておしまいだ。
『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』は、まずは怪異をたいへん過激な描写で見せてくれる。ほかの「実話心霊ビデオ」よりもわかりやすい形で怪異が描かれる。
しかし、このシリーズの特質は、怪異を記録した動画を投稿してきた者、怪異に遭遇した者、怪異を調べる霊能者や科学者が恐ろしいデキゴトに遭遇して翻弄される様子をPOV方式でつぶさに記録することなのだ。
彼らは、ひどい目に会う。それも唐突に、だ。だから目が離せないのである。取材の過程で、死人が出る、突然異世界が出現し、時間が逆行する。
彼らは、シリーズが進むに従って想像もつかない<世界の謎>に取り込まれていく。
「怪異の検証」からいつの間にか、ぽっかりと口を開けた深淵を目のあたりにするのだ。

『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』は、レンタルビデオとして制作されている。
で、レンタルビデオ専用の作品は予算が少ない。当然制作環境もキビシイものになるだろう。
ビデオ用映画は、本当に製作費が安いのだ。
予算200万とか100万とか、あげく50万などという驚くほどの低予算作品まであるのだ。そのような話をさる映像プロダクションの社長から聞いたことがある。

たとえば50万円しか予算がないとする。
脚本、役者、機材、車両、ロケ場所を借りる費用、制作スタッフの労賃、撮影時のメシや飲み物代まで出し、編集や音入れもして作品を完成させ、納品しなければならない。
機材には電気店で売ってるような民生品、編集はパソコンでCGも下請けを使ってコストを節約しなければならない。
少ないと言っても利益も出さないといけない。
こんな惨状でもビデオ業界は回っている。それが不思議ではある。
『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』は、監督自らがパソコンを使ってVFXを担当している。

創りてには辛すぎる現況にも関わらず、『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』は「面白さ」を貪欲に追及している。
きびしいけれども、白石晃士は作り続けている。走り続けている。その姿勢がすばらしい。








『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』は、さまざまなSF映像作品へのオマージュを散りばめつつ「世界」に挑む作品である。
「映画の一言も二言もある人」とか「映画を語ることを通じて、自分を賢く思わせたい」
といった感じの映画オタクには受けないだろう。
だが、私は白石晃士とスタッフ、キャストの挑戦に賛辞を送るものである。

面白い作品を見せてくれてありがとう。
ワクワクしながら見た。

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