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2020/07/16

Jホラー|経営破綻した病院と謎の感染者と怪異 落合正宗『感染』

救急車が患者の搬送中で、受け入れてくれる病院を探している。

なんだろうか、この映画は。
と、見始めの部分は首を傾げた。

レンタルDVD屋でジャケットに惹かれるものを感じて借りた。

さして予備知識はなかった。
「予言」という、つのだじろう先生の「恐怖新聞」を基にしたホラーと2本立てで公開された映画だったというのを覚えていた程度だった。

公開時には見に行かなかった。





『感染』を観始めた。

雰囲気を出すために部屋の電気を消してDVDをプレーヤーにセットした。

なにものかわからないものが現れては消え、何がどうなるかが明らかではない。
怖い。

夜の場面ばかりで、色を失ったような画面には不穏さが充満していた。


こういう映画に出会えるのは、とてもうれしい。

『感染』は、病院という、私たちがよく知っているはずの場所を舞台にしている。

自分が入院した時に感じた恐怖を思い起こす。
夜中、トイレに立って暗い廊下を歩いていた。
薬品と尿のにおいが混じったなかで、用を足す。
トイレをあとに、廊下を病室に戻る。
広い病棟のどこかから、かすかな足音が聞こえる。
巡回中の看護師さんなのだとは思う。
が、頭のなかに浮かぶのは、老人の患者で、しかも息を引き取ったはずの痩せさらばえたおじいさんだ。

よく知っているはずの場所であるはずの病院は、とたんに〈怖い、知らない場所〉に変わってしまうのだ。

そんな記憶を刺激されながら、鑑賞した。



経営危機によって院長がどこかへ逃げてしまい、医療用備品もなくなりかけて補充もできない総合病院。
看護師が9名も辞め、医師も看護師も疲弊しきっている。
院内では医療ミスが発生、医師たちは隠蔽を決める。
そこに、奇妙な患者が搬送されてきた。 
全身火傷を負い、何らかの感染症なのか、40度以上の発熱である。

一方で、病院内では次から次へと常識を逸脱した事件が起こる。
夜、光量も充分でない院内ではいるはずのない患者が呻き、死んだはずの患者が医師を責め立てる。
医師や看護師たちは怪異に見舞われ、少しずつ正気を失っていく。

いま起きていることは超自然的な事象なのか、狂気の淵に追い詰められた者が見ている幻想なのか。
観ていくうちに登場人物の異常な状況に目を離すことができなくなる。

ウソの世界に引きずり込まれること。
これは映画の醍醐味のひとつである。
とりわけ恐怖映画の愉しみは格別である。
暗闇に映画の<世界>に身を置くのは、ときにとても怖く、ときに快感である。
この映画はとても怖い。しかし目が離せない。

佐野史郎、佐藤浩市、南果歩、高嶋政伸、星野真里、木村多江、真木よう子。
みんな、ほかの映画やドラマで見られないような演技を披露している。
いずれも、狂気に侵食されていく様子に引き込まれる。

病院の入院病棟は怖い。

とくに、真夜中にふいに目を覚ますと、この世ではない何処かにつながっているような気配に満ちている。

病院に潜む怖さを味わいたい人に、おすすめする。

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