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2020/07/14

ヤマト誕生期の熱気、そして堕落へ。 豊田有恒 「宇宙戦艦ヤマト」の真実

豊田有恒の新書『「宇宙戦艦ヤマト」の真実ーいかに誕生し、進化したか』を読んだ。



豊田有恒は、『宇宙戦艦ヤマト』放映当時、気鋭のSF作家として、また、古代史にも造詣が深い作家として人気があった。
ストーリー原案およびSF設定を受け持った立場からの視点で、本邦初の本格的宇宙アニメ、もしくは映像のスペースオペラ作品がどんなふうにできたかを描いている。

『ヤマト』の〈地球を救うために広大な宇宙を旅して帰還する〉というストーリーの骨格は、SF作家の大御所・ロバート・A・ハインラインの『地球脱出』と、ご存知『西遊記』を基にした。

豊田有恒は『ラジェンドラ6』という物語を考えた。

ラジェンドラは地球に攻め入り、自分たちが居住地とするべく、放射能で汚染した。ラジェンドラの生命体は放射線の環境下で生きるのだ。
惑星イスカンダルは地球に放射能除去装置を提供するという。
地球人たちは、小惑星に偽装した宇宙船『アステロイド6』で旅立つ。宇宙空間を一気に飛び越える「ワープ航法」を駆使してイスカンダルを目指す。
『ラジェンドラ6』は、海底に眠る戦艦大和を宇宙戦艦ヤマトに改造するという松本零士のアイデアを得て、『宇宙戦艦ヤマト』となった。
ラジェンドラの正体については驚くべき秘密があるのだが、それはアニメでは採用されず、石津嵐の小説『宇宙戦艦ヤマト』やTVシリーズを劇場版に編集した映画第1作の当初のバージョンに反映されている。
ラジェンドラは松本零士の参加を得てガミラス帝国となる。
豊田有恒は、松本零士を「おおよその原作者」と評し、裁判の判決が真実と異なることもあると書いている。

豊田有恒は『さらば宇宙戦艦ヤマト』以降、『宇宙戦艦ヤマト 完結編』までSF設定に関与し、重核子爆弾、地球に水をもたらした水の惑星アクエリアスなど、各エピソードのコアとなるアイデアを提供した。
ネーミングでは、歴史に想を得たものが多いと明かす。
例えば、星の名称。アレクサンダー大王から「イスカンダル」、中東の氷菓子から「シャルバート」などである。

スタッフの無理解で、アイデアがうまく活かされないことも多かった。
『さらば宇宙戦艦ヤマト』の白色彗星は、もともと「白色矮星」だった。白色矮星は寿命の尽きた恒星の最後の姿である。恐るべき重力を持ち、周囲の天体を破壊す呑み込んでいく。豊田有恒の出したアイデアは、白色矮星を武器とする星間航行種族が太陽系に攻めてくるというものだった。
知っての通り、白色彗星という、科学考証もへったくれもない、わけのわからないものに改変されてしまった。

豊田有恒はその戦犯を明示していない。しかし、アイデアキラーと思われる人物について極めて辛辣に書いている。

西崎義展である。

『ヤマト』の企画を成立させた稀有なプロデューサー。

人たらしの才能があり、相手を丸め込んで『ヤマト』の生み出すカネと権利ををほぼ独占して蕩尽した怪物。
クリエイティブな才能はないが、〈自分が創ったことにしたい〉という自己顕示欲が人の姿をとった存在。
運転手付きリンカーンコンチネンタルに乗り、豪華なクルーザーを買い、武器も買い、赤坂で豪遊し、何人も愛人を囲い、何百億ものカネを使い果たしたあげく覚醒剤に手を出して捕まり、服役した。




豊田有恒はこの本で『宇宙戦艦ヤマト』から『宇宙戦艦ヤマト 完結編』まで関わって設定を作ったことを語るが、作品については一切論評していない。
スタッフとして『ヤマト』を作った松本零士、宮川泰、藤川桂介、スタジオぬえ、出渕裕などの「同志」的な、さらには〈西崎義展被害者の会〉的なつながりを書いている。
出渕裕はSFファンとして豊田有恒とはかねてより交流があった。
豊田有恒は、出渕裕が『宇宙戦艦ヤマト2199』 を手がけるにあたり、松本零士に対して名前をクレジットできないことについて謝罪をしたことを明かしている。

豊田有恒のアイデアは今読んでも色褪せないおもしろさがある。

豊田有恒や松本零士が作ったアイデアに立ち返って、『宇宙戦艦ヤマト』リメイクしたら面白いんじゃないだろうか。
『さらば宇宙戦艦ヤマト』『宇宙戦艦ヤマト2』のリブート作品が作られたが、一部のファン以外は全く関心も示さずに地味に消えてしまった。
これを中止して、『宇宙戦艦ヤマト Naked』とでもいうべき、初期アイデアに基づいた古くて新しい『宇宙戦艦ヤマト』が観てみたい。



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