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2014/05/15

宇宙戦艦ヤマトの堕落史5|宇宙戦艦ヤマト 完結編

「宇宙戦艦ヤマト 完結編」が公開された1983年は、りんたろう監督の「幻魔大戦」が公開された年だった。
「幻魔大戦」を見に行って、大友克洋の画がアニメで動いていることに驚いた。
映画冒頭、女の占い師が幻魔侵攻を告げる場面、アングラの小劇団の芝居みたいだと思ったら、声が白石加代子で、とても印象的だった。


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それがつよく印象に残ってる。
と、他の映画のことを書いた。
「宇宙戦艦ヤマト 完結編」はあまり印象に残っていない。
長かったな、という記憶はある。エンディングがだらだらした感じだったのも何となくお覚えている。
敵となるディンギル帝国もヤマトの最期も印象が薄いのだ。



地球の危機を救うために、ヤマトは自爆する。
そのラストまで盛り上がらない話がダラダラ続いた。
「宇宙戦艦ヤマト 完結編」、最期という触れ込みだったので、封切りで見に行った。

この映画は長かった。
 アニメで2時間半はキツイ。70mm完全版はさらに尺が延びて2時間43分もある。
これはもう、ケツが痛くなる長さだ。
しかも長尺にもかかわらず、話は弛緩していてものすごく退屈。
いっそうケツが痛くなるのだ。

そういう作品を作ったスタッフの一覧。

企画・原作・製作・総指揮:西崎義展
原作・設定・監修:松本零士
総監修:舛田利雄
監督・勝間田具治、西崎義展
脚本:山本英明、笠原和夫、山本暎一、舛田利雄、西崎義展
チーフディレクター:白土武
音楽:宮川泰、羽田健太郎
原画:二宮常雄、金田伊功、高橋信也、宇田川一彦、亀垣一、羽根章悦、小泉謙三、中鶴勝祥、鍋島修、湖川友謙 他
総作画監督:宇田川一彦
キャラクターデザイナー:宇田川一彦、高橋信也

アニメ制作部分以外の、脚本や設定に噛んでいる人間が多い。
多すぎる。
脚本にはかの名作「仁義なき戦い」でもおなじみの笠原和夫も参加しているというのがびっくり。舛田利雄監督が呼んだのだろうか。

「宇宙戦艦ヤマト 完結編」のストーリーづくりではいろいろな意見が出て、それを会議でまとめて行ったのだと思う。
その結果完成したものは、つぎはぎで矛盾だらけで思考停止で破綻した物語。

ストーリーは、こうだ。
映画の冒頭は名優・仲代達矢による重厚なナレーションで始まる。
ちょっと驚いたが、仲代達矢って舛田利雄の「203高地」で主演してるから縁があるんだな。

2203年、銀河中心部に、いきなり別次元からやって来た銀河が交錯し、ガルマン・ガミラス帝国もボラー連邦も壊滅した。いきなり「宇宙戦艦ヤマトlll」をなかったことにしている。
「宇宙戦艦ヤマトlll」の作品世界の設定は2205年。西崎義展が「昔のように感情豊かな古代をドラマで描きたい」などと言って設定を変更したのだという。
というと、また「作品世界が分岐した」と言いたいが、「宇宙戦艦ヤマト2」以降のヤマトはそんな御大層なものではなくてご都合主義の権化とでもいうべきデタラメが標準化したので、年代設定が変わるくらいどうってことないのである。

別次元から出現した別の銀河が地球が所属する銀河と衝突し、多くの星々が消滅した。銀河を二分して支配していたガルマン・ガミラス帝国もボラー連邦も壊滅。
今回の敵は、神官総統ルガールのディンギル帝国。
ディンギル帝国の本星は、水の惑星アクエリアスによって水没。
ルガールは都市衛星ウルクにいて難を逃れた。ルガールは本星壊滅の報告を息子から受けると、「この世は強い者のみが栄えるためにある。弱い女子供や年寄りは滅びて当然」と言ってのける。
こういう粗雑なセリフを吐く時点で、悲惨な末路は自明ではある。
奇怪なことに、都市衛星ウルクは、アクエリアスをコントロールできるのだ。
ディンギル帝国は、アクエリアスを地球近くにワープさせて水没させ、水が引いたら移住しようという計画を実行する。アクエリアスを制御できる技術があるのなら、母星に災厄をもたらす前に、どこかよそへワープさせればよかったのではないのか。

ガルマン・ガミラスからの帰途、ヤマトは水没するディンギル星で救出活動をする。救助できたのは男の子一人。(総統ルガールの息子だが、のちに父親に射殺される)
ディンギル帝国の艦隊と交戦する。その攻撃でヤマトのクルーは古代進艦長以下、みんな仮死状態になる。
ヤマトは勝手に地球に戻る。あたかも意志があるように。このことに説明はない。なにか神秘の力かなんかなんだろう。

ヤマトは修復後、出撃する。
ここで沖田艦長が実は生きていたといって登場する。佐渡先生の誤診で、生きていたのだと。佐渡先生はカメラ目線で画面に向かって謝罪している。それにしても「英雄の丘」という 慰霊施設と沖田艦長の銅像まで作って祀っていたのに、生きていたと。




絵ヅラとしてはグッと来ないわけではない。
沖田十三ってカッコいいものね。

しかし、これといった活躍はなく、地球に降り注ごうとするアクエリアス の水塊を阻止するため、ヤマト艦内に残り、自爆のトリガーを引いて、2度めの昇天。真田さんがいるんだから、リモート操作で自爆くらいできそうなものだけれど、ヤマトではおなじみの「ムダな自己犠牲で感動を押し付ける」が優先されて、沖田艦長はまたもや死んだのだ。
ヤマト自爆後、艦体はまっぷたつに折れたものの、艦橋付近はあまり破壊されていないように見える。沖田艦長も瞑目し、一応死んでいると思われるものの大きな傷など見受けられない状態で水没してしまった。
そうなると、「低温状態だったので、実は死んではいなかった」とか「クローン技術で蘇生できた」なんていう理由をつけて、復活篇で登場していたとしてもおかしくはなかったな、などと思う。

ヤマトは沖田の指揮下、アクエリアス接近阻止のために旅立つ。
途中、ヤマトはウルクに強行着陸し、白兵戦を挑む。
航海長の島大介は艦長の命令で白兵戦の前線に出て戦死する。航海長を白兵戦に駆り出すというのがまったく意味をなさない。
重要な人物が死ぬと観客が感動する。そう思っているのが、西崎義展なのだ。
島は事切れる前に、森雪に向かって「ずっと好きだった」と言う。「宇宙戦艦ヤマト2」でのテレサとの恋愛はなかったことになってるのか?あるいは、「宇宙戦艦ヤマト2」で分岐した世界とはまた異なる世界だからなのか。

さて、デスラーである。
銀河の衝突によってガルマン・ガミラス帝国が壊滅したが、デスラーはたまたま辺境に視察に行っていて無事だった。それで、ヤマトのピンチにおっとり刀で駆けつけてディンギル帝国の艦隊を壊滅させるのである。
その時にヤマトのスクリーンに映ったデスラーはバラの花を胸につけるというキザな仕草をする。そのバラは、ガルマン・ガミラス帝国壊滅の調査で訪れたガルマン・ガミラス本星の廃墟に捧げた花束から取ってきたものらしい。




こういう3日くらい徹夜した挙句、思考停止した脳みそから出てきたようなエピソードをしれっと盛り込んでる。
このデスラー、歌舞伎に何の脈絡もなく登場する源義経や加藤清正みたいなものか。
ディンギル帝国はデスラーとの戦闘で壊滅した。
スペースオペラというか前近代的な宇宙物語なんだから、悪役が魅力的でないと全然面白くならない。「宇宙戦艦ヤマト 完結編」はデスラーが出てきておいしいところをさらったのも手伝ってディンギル帝国は魅力に乏しい敵になってしまった。

やがてアクエリアスは地球に接近、まさに水が地球に降り注ごうとする。
アクエリアスのワープを止められなかったヤマトが最後に取る手段が「アクエリアスからトリチウムをあつめてヤマトを巨大水爆にして自爆」というもの。
波動エンジンって、小宇宙に匹敵する莫大なエネルギーを持っているはずなのに、波動砲の威力は水爆など比べものにならないはずなのに、使わない。
「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」以降、設定の扱いが粗雑で恣意的にすぎる。
沖田十三が艦内に残る必然性もあまりない。
映画の前半で、ディンギル星からの帰途、乗員がみんな気を失ったのに、ヤマトはあたかも自らに意思があるようにして地球に帰還した。この謎は回収されていないので、<ヤマトに宿った意思>に操られて、無人のヤマトがアクエリアスの水塊を分断するというのをエンディングに持ってきて伏線を回収するのもあったんじゃないか。
その意志の正体とはスターシャと古代守と(ふたりの娘のほうの)サーシャである。精神体となった3人がヤマトを動かすのだ。これこそ愛の力なのだ。
沖田十三は3人にヤマトを託して退艦する。オカルトじゃないかって?
違うよ。
宇宙愛ってやつだよ。

または、戦艦大和、宇宙戦艦ヤマトを通じての戦死者の英霊が現れて、ヤマト乗組員に「われわれが行く」と訴え、退艦を促すというのもいい。

なんてことにはならないで、アクエリアスの水が地球にふりそそごうとする中、沖田艦長だけが残ったヤマトは水柱のなかで水爆となり自爆、地球の危機は回避された。アクエリアスの水塊に沈むヤマトを見て、デスラーは滂沱の涙である。
アクエリアスはいずこかへと去った。

「宇宙戦艦ヤマト 完結編」はデウス・エクス・マキナに魅入られたアニメだった。
そして多様化し、進化していくアニメの中にあって、取り残されてしまったアニメでもある。時計が止まってしまったなかで作られたアニメである。
この映画が公開された翌年の1984年には宮崎駿が「風の谷のナウシカ」を、押井守が「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」を発表している。
粗雑な「宇宙戦艦ヤマト 完結編」はすぐに忘れられてしまった。


しかし。
これが最期ではなかった。

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この映画に接続する世界=「宇宙戦艦ヤマト 復活篇」でのヤマトは17年後に修復され、SUSという異次元からの侵略者と戦った後、銀河中心部にワープした地球を追いかけて航行中だったりする。
したがって、「完結編」は嘘っぱちだ。
まあ、「さらば」と言っていたのにまたしれっと出てきたくらいなので、これくらいでは驚きやしなかったけれどさ。



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