Pages

2017/03/24

松本零士と『宇宙戦艦ヤマト』を考える。

「もしも、ヤマトが当初の構想のように小マゼラン星雲に行っていたとしたら」

「もしも、ヤマトにキャプテン・ハーロックが出ていたら」

「もしも、宇宙戦艦ヤマトの世界に白色彗星帝国の侵攻がなかったとしたら」

などということを昔、よく考えたものだ。

ずいぶんと前の話だけど、<ありえたかもしれない『宇宙戦艦ヤマト』>のことをよく考えていた。
いや、考えていたというよりも、妄想にふけっていた。

例えば、劇場版『銀河鉄道999』の制作スタッフによって作られた『宇宙戦艦ヤマト』が作られたらいいのに、などと考えていた。
作画力のずば抜けた小松原一男が松本零士テイストを上手にアレンジした作画、椋尾篁の寒色を基調にした美術が描き出す宇宙と、そこを征くヤマト。
そして、りんたろうだったら、ヤマトをどのように料理しただろうか。
キャプテン・ハーロックも登場させて、<松本零士の世界>との密接なリンクを見せてくれたとしたら・・・

これは、過去、私が抱いていた空想だ。
『さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち~』を見て深く失望し、それから1年の時間を経て抱いた妄想だった。

だけど、今もリブートした『宇宙戦艦ヤマト』についてかすかに抱く想いはある。
松本零士が参加していたら、どうなっていたのだろうか。






『宇宙戦艦ヤマト』は、奇跡的な作品である。



西崎義展が集めたスタッフの奇跡的な化学反応で生まれた作品だった。
山本暎一、豊田有恒、そして誰よりも松本零士の参加なしに生まれることもなかっただろう。
もちろん、アニメーションディレクターとクレジットされた石黒昇の力量なしにこの作品は成功は叶わなかっただろう。
いや、『宇宙戦艦ヤマト』という作品は生まれたとしても、こんなに長く支持を集める作品にはならなかったのではないだろうか。
「空飛ぶ戦艦」というお話は、珍しくないアイデアだ。
飛ぶ船の話はたくさんあった。
そういった中で、『宇宙戦艦ヤマト』は長く支持される作品となった。
その理由の一つが、松本零士という「味」なんじゃないかと思う。

ごく普通の人々が『宇宙戦艦ヤマト』と聞くと、「ああ、松本零士のアニメね」と返答するはずだ。西崎義展や石黒昇や山本暎一や舛田利雄や勝間田具治という名前は出てこないだろう。

松本零士と宇宙戦艦ヤマト。
その関係を改めて考えるために、松本零士へのインタビューのうち、ヤマトについて語った部分を集めてみた。



それから、作品として自信がある無しじゃなくて、『ヤマト』を娯楽として漫画でお茶の間に送り込むということに、当時は重圧感を感じていたんです。肩の荷が重かった。戦艦「ヤマト」は3000人近くの戦死者を抱いて沈んだ船なんです。遺族もいるしその子供たちもいる。それで対極にスターシャを置いて、ヤマトは生存のために宇宙をおし渡る、大航海物語にしたんです。

『宇宙戦艦ヤマト伝説』(1999年・フットワーク出版社)

 ところが私の父親に言われて、私も信じてることに、人は生きるために生まれて来たんだ。だからどんなことがあっても生きろというのがあって、これが私の親父の、私に対する厳命だったんですね。
命というのは生きるために生まれてくる。
死ぬために生まれてくる者なんかおらん。
それははっきり、子供の頃から、たたき込まれてたんです。
ですからヤマトの最初のテレビシリーズで、沖田艦長が言いますよね。
「明日のために、屈辱に耐えて生きろ」と、それが男だ。
これがその言葉なんです。

--アメリカでは、『スター・ブレイザーズ』で初めてヤマトに接したので、日本版の『ヤマト2』に相当する部分を、『さらば』より先に観ました。
『2』で復活したデスラーは、地球と地球人を理解して、「古代、お前は生きろ」と言った場面に感銘を受けたのに、『さらば』ではそうなっていなくて、非常にガッカリしました。
今でも先生の精神は『2』の通りなんですか?

そうです。ですからその次回作(『新たなる旅立ち』)では……もはやタイトルさえうろおぼえですが、プロデューサーと大ゲンカになりました。
なんでも殺すのが好きなんですよ。
でも私はそれはイヤなんです。
なんのためにそんなことをするんだと思います。
だって創作者が物語とキャラクターをつくる際は、存分に生かそうと決めて、思いのありったけを込めるわけです。
それをあっさり殺されたら、自分や、自分の兄弟や子供が殺されたみたいな、本当にイヤな気分になります。
そこが創作家とプロデューサーの違いなんです。
だから実際にものすごく腹を立てましてね。
オレはここから先は知らんぞと、脚本をたたきつけて帰って来たんです。
だったら自分は自分でつくると。
お涙ちょうだいで死なせるのにはつきあいきれない。
この意見の相違には辟易しました。
私は死なせたくない、それに尽きます。

松本零士インタビュー〈パート1〉
http://ameblo.jp/addicto/entry-10787947552.html


 松本 でも、こんなチャンスはめったにないので、挑戦することにしました。ヤマトの物語を最初から描き直して、どこの国の人が見ても傷つくことがないよう、嫌な思いをしないよう、万全の配慮をして。

 ──ご自身の信念を作品に描き込んだんですね

 松本  人類皆兄弟。ケンカすることもあるけれど、長い歴史で見たら同じ地球人。日本でもあるでしょう。会津出身の知り合いがいるんですが、最初に出会ったときに 「お前は九州か。昔なら敵だ」と言われ、大笑いして、それから仲良くなりました。現代なら笑い話で済む。昔はそうだったけれど、今は同じ日本人。地球人も そうなるでしょう。お互い理解しあえる日が来るはずだと。

 ──「ヤマト」で訴えたかったテーマは

 松本 地球を救うために、生きるために飛ぶ-です。生存のために飛ぶのであって、死ぬために飛ぶんじゃない。胸の中には、戦場で倒れていった地球上のすべての人たちへの思いがあるわけです。いつの日か殺し合いのない世界に。そんな思いを込めました。
松本零士 「ヤマト」は生きるために飛ぶ
http://ironna.jp/article/1230


荻野
お忙しいところお時間いただいて本当に申し訳ございませんでした。
でも、せっかくいただいたお時間なので、色々と質問させてください。
TVアニメーションシリーズ『宇宙戦艦ヤマト2199』についてどう感じておりますか?
松本先生
私は今回の作品についてはタッチしていないので、作品自体に対するコメントはあまりしたくありません。
ただ、今後アニメ制作の話が出るのであれば必ず、私が関与して作品のクォリティーを上げたいですね。
突撃インタビュー第一弾「松本零士先生」
http://oggipictures.jp/10interview/突撃インタビュー第一弾「松本零士先生」



(玉袋筋太郎)だけどね、『宇宙戦艦ヤマト』のね、プロデューサーの西崎義展さんの本が、すごかったじゃないっすか?

(吉田豪)名作です!

(玉袋筋太郎)狂気(「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気)。

(吉田豪)そして、意外と松本先生に冷たい感じの本で。

(玉袋筋太郎)そうなんだよね。うん。どうだったんだろうね。

(吉田豪)そう。その話もちょっと聞いてみたんですよ。そしたら、意外なんですよね。怒っているのか?と思ったら、『西崎さんに声をかけられてヤマトに参加したわけじゃないですか。そのおかげでアニメの世界に入れたからね、感謝してるんですよ』って言っていて。ああ、そこは素直にそうやって言ってくれるんだ!って。

(玉袋筋太郎)うん。

(吉田豪)『たしかにね、あれだけ大ヒットしたアニメなのに、もちろんお金もくれなかったですよ』と(笑)。

(玉袋筋太郎)(笑)。そこは。

(吉田豪)『いくらももらってないですけど、感謝はしてます』と。

(玉袋筋太郎)なるほど!

(吉田豪)『おお、大人!』っていう。

(玉袋筋太郎)そうだよね。だから『宇宙戦艦ヤマト』は全部、ずーっと松本零士さんの作品だと思っていたんだけど。やっぱり西崎さんが原案。原作だったっていう。

(吉田豪)裁判でもね、松本先生が敗北しましたから。

(小林悠)ええーっ?

(玉袋筋太郎)そうだよ。敗訴だったんだよ。

(吉田豪)そうなんですよ。

(玉袋筋太郎)いやいや、まあね、あるね!


 松本零士先生からの直電話
(小林悠)あの、ここで大変なことが起きました。

(玉袋筋太郎)はいはい。どうしました?

(小林悠)先ほど、吉田豪さんがね、松本零士先生についてお話する時間がありましたけども。松本零士さんご本人、お電話がありまして。

(玉袋筋太郎)あ、お電話ですか?

(小林悠)つながっているということで。もしもし、先生?

(松本零士)あ、もしもし。松本です。

(玉袋筋太郎)どうも先生、ありがとうございます。

(小林悠)先生、どうされたんですか?

(松本零士)はい。お聞きしてたんです(笑)。

(玉袋筋太郎)ありがとうございます!

(小林悠)まあ!お忙しい中、ありがとうございます。

(玉袋筋太郎)いかがでしたかね?

(松本零士)ええ。その中でですね、1ヶ所だけ違うところがありまして。

(玉袋筋太郎)はい、わかりました!

(松本零士)あの、ヤマトの原作っていう部分ですね。これは実は、まあ会議に会議を重ねて協議しながら作り上げていったんですが。基本的な部分は私が作ったんですよ。だから、私は原作者で自由にヤマトは書けるんですけどね。

(玉袋筋太郎)そう!そうですよ。

(松本零士)それからあの、登場人物の名前から何から。それから、要するに情景設定ですね。そういうものもデザインも含めて、何もかもやったんです。ただ、会議に会議を重ねながらですね、西崎氏ももちろん、豊田有恒氏やらいろいろ大勢の方と一緒に作ったんですね。だから共同制作にはもう間違いありません。だけど、基本的に全体の構成、原作ですね。それは私がやりました。

(玉袋筋太郎)おお!

(松本零士)これは裁判沙汰にもなったんですが、全部それで通ってますんでね。私はあくまでも原作者なんですよ。

(玉袋筋太郎)その通りです!

(松本零士)それがさっきあの・・・(笑)。『西崎氏の原作だ』と言われたんで。

(玉袋筋太郎)すいません。

(松本零士)もちろん、彼には心から感謝してるんですよ。

(玉袋筋太郎)あ、感謝してるんですか?

(松本零士)うん。彼が私に依頼してくれたので、私がアニメーションっていう道に入れたんです。そのきっかけを作ってくださった方なんですよ。ですから、その点についてはですね、いろいろなゴタゴタ。ケンカもしたり、いろんなことしたり、大騒動もやったけど、そうじゃなくて。彼が声をかけてくれたということを心から感謝しているんです。それは。

(玉袋筋太郎)いやー・・・

(松本零士)だから、自分がそういう道に入るきっかけを作ってくれたんです。それはもう、心から感謝しております。

(玉袋筋太郎)いい時代です。

(松本零士)それで、共に良くしようとしてお互いに激論を交わしながら、2人だけじゃなくて、スタッフも全部ですね。それで作り上げていったのがこの作品なんですよ。

(小林悠)なるほど。よく事実関係がわかりました。ありがとうございます。

(松本零士)美術の方もがんばってくれましてね。だから手書きですよ。この時代は全部。

(玉袋筋太郎)すごい。先生、やっぱり定規とか円を書くとか。あれも全部手書きだったって。

(松本零士)あれは絵の書き方の秘訣ですね。あの、絵を書く時には自分の心というか。心で書くわけですから。その力を込めるアクセントですね。そういう部分が必要なので
、手で書かなくちゃ行けないんです。

(玉袋筋太郎)じゃああの精密なコックピットも全てもう本当に?

(松本零士)もちろん定規を使わなきゃどうしようもない、コンパスを使わなきゃどうしようもない場所もありますが。それでも、それを書きながらさらにそれを自分の手で。力を込めるところとか、アクセントですね。それを感情を込めて書くんです。だから、それともうひとつ、私がアフリカやアマゾンに行っているのは・・・

(玉袋筋太郎)ア、アマゾン!?

(松本零士)あの、自分で見ていれば、見たものを立体的に表現して書けるわけですよ。だから行く必要があるんですね。ですから、写真を見て書く絵と、自分がその場所を知っていて書く絵は明らかに違うんです。裏側まで知っていて書くわけですから。

(玉袋筋太郎)先生、ライオンをハンティングしようとしたんですもんね。でも。

(松本零士)うん。決闘に行ったんですけどね。ただしこれは条件がありましてね。ライオン、ゾウ、カバ、キリン、サイあたりは要するに保護動物にその当時もすでになりつつあったんですよ。ただし、ケニヤ政府から証書をもらいまして。『自らの命が危険に陥ったら撃ってもよろしい』という証書をもらって。それでサバンナに出たんです。

(玉袋筋太郎)かっけー!

(小林悠)ちょっとこれ、お話が終わらないですね。大変ですね。

(松本零士)大変ですから、ここで止めますけど。それでライオンに・・・

(小林悠)先生、実はお願いが。先生。

(玉袋筋太郎)先生。

(松本零士)ライオンに挑戦したんですよ。

(玉袋・小林)(笑)

(松本零士)ところがですね、ライオンさんもね、そういう人間はわかるわけですよ。クルンとお尻を向けて向こうに行ってくれて。襲ってきてくれなかったですよ。

(玉袋筋太郎)よかった!

(小林悠)よかった。先生、ご無事で。

(松本零士)そういうわけでして。でも、そういう体験が。飛行機も何もかも含めて、自由にできたまだのどかな時代だったんですよね。

(小林悠)本当ですね。先生、実はお願いがございまして。ぜひ、そういったお話を含めて、たまむすびのスタジオまでお越し頂いて。その筋の話ということで、ゲスト出演いただくことは可能ですか?

(松本零士)可能ですよ。

(小林悠)ありがとうございます。

(松本零士)やりましょう。面白い話、いっぱいありますから。

(玉袋筋太郎)お願いいたします!

(小林悠)ぜひ、よろしくお願いします。待っておりますので。

(松本零士)我々の時代はゆるやかな、おおらかな時代だったんです。いまやったら、全部御用でしょう(笑)。

(玉袋筋太郎)御用(笑)。

(小林悠)(笑)。あの、放送できる範囲でぜひ。

(松本零士)その当時はね、本当に優しかったんです。世の中が。

(玉袋筋太郎)先生!ありがとうございました!

(小林悠)すいません。わざわざお電話いただいて。

(玉袋筋太郎)どうもすいませんでした!

(松本零士)そういうわけです。

(玉袋筋太郎)松本零士先生でした!ありがとうございます。

吉田豪 松本零士の素顔を語る
http://miyearnzzlabo.com/archives/31772

松本零士は、西崎義展に感謝の気持ちを述べている。
ちょっと救われた気持ちになる。
西崎義展が松本零士に声をかけなかったら、『宇宙戦艦ヤマト』も、アニメ版『銀河鉄道999』も観られなかっただろうから。

松本零士は、少女漫画、青年誌向けのちょっとエロティックなSF漫画、貧しいけれど希望があった青春を描く漫画、戦場を舞台にした漫画など、いろいろ手がけていた。
松本零士は短編で実力を発揮できる人で、アイデアとひねりが効いた漫画が楽しめた。
最初のTVシリーズが好きなのは、「地球を救う」という大きな使命を帯びて旅するという話より、「宇宙という未知と驚異」を描いていたからで、それは松本零士の短編マンガに通ずるものがあったと思う。
すべてのアイデアを松本零士が出したとは思わないが、最初のTVシリーズはアニメという未知の世界で意気が上がって多様なアイデアを出していたと思われる。

『宇宙戦艦ヤマト 新たある旅立ち』以降の作品は、松本零士のテイストがかなり薄まっている。松本零士が自分の意向を反映しやすいほかのアニメ作品と本業の漫画が忙しかったからだと思うが、もし松本零士の主張が強く反映していたら、様々な点で違ったものになったに違いない。
たられば、の話だけど。







PlayStation用ゲームのムービーを観た。
松本零士タッチのエッセンスを上手に活かした画が好み。松本零士の個性的な描線もしっかり反映し、女性キャラにも<松本美女>の香りをしっかり付けている。
『ヤマト』に対する愛情がある映像だと思う。
TVも映画も作画の面では松本零士のテイストが薄かったと思い起こさせる。

美しい画で描かれた『宇宙戦艦ヤマト』の再制作版が見たい。
松本零士のタッチが活かされた画で。






『二重銀河の崩壊』は、ある種、『宇宙海賊キャプテン・ハーロック』の前史と想像させる趣向があって楽しい。広川太一郎の古代守も、いい。

西崎義展逮捕ののち、松本零士はITベンチャーの出資を受け、勝間田具治、宮川泰など旧作のスタッフに声をかけ、ストーリー作りに小説家の石川好も招いて、『新宇宙戦艦ヤマト』制作をぶち上げたことがあった。
最初のヤマトの物語から1,000年後、沖田や古代はじめヤマトクルーたちの子孫がグレートヤマトに乗るという話はあまり見たくない。
それではなくて、松本零士カラーの強い第1シリーズの再制作版が見たい。
出渕裕が手がけた『宇宙戦艦ヤマト2199』は、松本零士、および制作者への深い敬意に溢れた良い作品だった。
そんななかで、最初のテレビシリーズをもう一度創るというのは無理な話かもしれない。しかし、見てみたいものだ。




ヤマトのことは色々と空想をするととても楽しい。
いや、好きな作品や、それに出てくる人たちの「その後」をあれこれ考えることは、楽しいものである。
そんな楽しいことが、今では「リブート」と呼ばれる称されるようなビジネスになっている。
かつて話題になってヒットしたアニメ、思い出の中にあったアニメが、作り直されて出てくる時代となった。

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』がイベント上映/Blue-ray・DVD発売/有料ネット配信を始めた。
『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』と似たテイストが付けられているように思える。松本零士のテイストは『2199』よりも薄まっている。











0 件のコメント:

コメントを投稿