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2017/03/15

『キカイダー REBOOT』と日本特撮の「先見性」

ああ、まただ、と思った。

日本の特撮関係者および特撮専門ライターのなかには「ハリウッド製SFXムービー」に対する「日本の映画/ドラマ」「日本の特撮映画/ドラマ」の先見性や優位性を口にする人がけっこういたのだ。
ジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグ、リドリー・スコットなどの名だたる監督たちが特撮を駆使した傑作を次々と発表していた頃のことだ。
日本の特撮も捨てたものではない、世界に影響を与えてきたのだという論調の記事を「特撮専門雑誌」などで読むことができた。
これもある種のナショナリズムの発露なのか。
あるいはオタク特有のひいきの引き倒しか。

東映のプロデューサー、白倉伸一郎の発言を読んで、かつて特撮雑誌などでよく目にした論調に懐かしさを覚えた。

――もともと「キカイダー」は「善と悪」をテーマにしていました。それはまさに、近年、ハリウッドで映画化されるアメコミ映画に共通するテーマのように思うのですが。
白倉:そうですね。 図らずも現代的なテーマになりました。(ヒーローの苦悩などをハードボイルドなタッチで描き出し、後のバットマンシリーズに多大なる影響を与えたフラン ク・ミラーによる傑作コミック)「バットマン: ダークナイト・リターンズ」は確か1980年代に発表されたと思うのですが、あれもやはり日本のマンガやアニメに影響されたものです。それがようやくここ数年で実写映画の分野にも広がってきたのではないかと。これはおこがましい言い方ですが、ようやく向こうが追いついてきた、という気構えでいます。要するに、われわれがアメコミのヒーロー映画の後追いをするわけではないということです。

http://toyokeizai.net/articles/-/39193

これは『キカイダー  REBOOT』という映画のパブリシティである。
なんでこんな前時代的で頭の良くない宣伝文句を口にするんだろうか。
日本のアニメは海外の映画に深い影響を与えているが、特撮もそうだったっけか。









「ハリウッド製SFX映画」に対する「日本の映画/ドラマ」「日本の特撮映画/ドラマ」の先見性や優位性は、何を根拠にして語られてきたのだろうか。

最初の根拠は、60年も昔に遡る。
1954年の『ゴジラ』を代表とする本多猪四郎、円谷英二の優れた仕事である。
まず、特撮の素晴らしさが賞賛された。
ハリウッドがモンスターを描くときはストップモーション・アニメーションが主流なのに対し、着ぐるみや操演を使い、予算も時間もない中で質の高い映像を作った日本の特撮。
その特撮を駆使し、巨大な怪獣ゴジラを復興したばかりの東京に上陸させた。闇の多い東京の夜に屹立するゴジラの怖ろしさを描いてみせた。
『ゴジラ』は核への恐怖を怪獣に仮託して描いたこと、ゴジラ上陸を通じて東京大空襲の再現を見せてくれたことが秀逸である。






時は下って70年代末、『スターウォーズ』の日本公開がアメリカから1年以上も遅れたという<時差>を利用して制作・公開されたSF超大作『宇宙からのメッセージ』がある。
この映画は『南総里見八犬伝』を宇宙に置き換え、復讐譚もぶち込んだスペースオペラというか、スペース時代劇だ。
『宇宙からのメッセージ』では、被写体を接写できるシュノーケル・カメラを使った撮影が行われた。これが、上下左右を閉ざされた狭い空間を疾駆するドッグファイトという、『スターウォーズ』もやっていなかったシーンを実現した。
『スターウォーズ ジェダイの帰還』では、同様のドッグファイトが描かれた。『宇宙からのメッセージ』に影響を受けたものだ。
つまり、<日本の特撮映画に影響された>のである。

すごいではないか。

ただし、のちに『スターウォーズ ジェダイの帰還 特別篇』では『宇宙からのメッセージ』に影響を受けたシーンがCGによるドッグファイトに置き換えられてしまったので、「正史」からは除外されたことになる。

『宇宙からのメッセージ』は娯楽映画を撮らせたら天下一品、深作欣二が監督した映画だ。見どころ満載の楽しい映画だ。
時代劇映画やヤクザ映画が撮られた東映京都撮影所で撮影された。そのせいなのか、ヤクザ映画や時代劇映画のテイストが微妙に混じっているのがいい味付けになっている。
ふだんは時代劇のセットを組むことが多い人たちが組んだ宇宙や異星のセットがよくて、それを背景にした殺陣ははっきり言えば『スターウォーズ』のジェダイ騎士の殺陣よりもはるかにいい。
主演・ヴィック・モローの声を吹き替えた若山弦蔵がすばらしい。この映画は若山弦蔵の映画である。





上述の『ゴジラ』、『宇宙からのメッセージ』以外の日本特撮がハリウッド映画に影響を与えた事例としては、東映低予算戦隊物、メタルヒーローものも挙げられはする。

『宇宙刑事ギャバン』に関して、『ロボコップ』のポール・ヴァーホーヴェン監督はバンダイに対して手紙を送り、映画の中でデザインを引用することを伝え、許諾を得たのだ。
このことも「優位性」自慢の人には誇らしい事実である。
ただ、これは著作権侵害にならないようにするための措置で、あくまでもデザインに限定されることである。

 『ゴレンジャー』が『スターウォーズ』に影響を与えていた、という話も何かで読んだ。
休暇でハワイを訪れたジョージ・ルーカスはTVでたまたま『ゴレンジャー』を見た。登場した怪人の造型がダース・ベイダーのヒントになったものだという話だ。ただし、裏は取れない。
ダース・ベイダーは時代劇を見たルーカスが、兜姿の武将からヒントを得たというほうがリアリティがあるのだが、どっちだろうか。

<それがようやくここ数年で実写映画の分野にも広がってきたのではないかと。これはおこがましい言い方ですが、ようやく向こうが追いついてきた、という気構えでいます。>

とおのれの企画した『キカイダー  REBOOT』を持ち上げる白倉伸一郎。
これは、最近のハリウッド製ヒーロー映画は平成仮面ライダーシリーズや戦隊物にやっと追いついたということなんだろうか?
このプロデューサーは、どうして逆立ちした物言いをするのだろうか。

<要するに、われわれがアメコミのヒーロー映画の後追いなど、するわけではないということです>だそうだが、クリストファー・ノーランの 『ダークナイト3部作』や『ウォッチメン』のような、アメコミヒーローのシリアス映画がヒットしなかったらこんな企画が出てくるわけないだろう。

順番が逆だ。

『ダークナイト3部作』や『Iron Man』、『スパイダーマン』など、昔のヒーローを引っ張りだしてストーリーをやり直した結果、大ヒットして大儲けしている様子を見て企画が立ち上がったのははっきりしてるじゃないか。
もし『ダークナイト3部作』がヒットせず、高い評価を得なければ『宇宙刑事ギャバン  THE MOVIE』も『キカイダー  REBOOT』もなかっただろう。
東映は昨年、『宇宙刑事ギャバン  THE MOVIE』を公開した。ポスターデザインを見るに、デザイナーかプロデューサーの頭のなかには『ダークナイト』があったと容易に推察できる。



『宇宙刑事ギャバン  THE MOVIE』はおもしろくなかった。

そして、『キカイダー  REBOOT』である。
感想はただひとつ。
「大言壮語はしないほうが身のため」である。

これはプロデューサーに向けて言っている。

「お金取ってお見せするので、テレビより少し予算多めで作りましたよ」という映画だ。いや、これは映画ではなくって、大きな画面で見せる「特別なテレビ番組」だ。
脚本がまともに練られておらず、首を傾げたくなるようなストーリー展開で予算がないので戦闘シーンなどはしょぼい。
着ぐるみ身につけた同士が延々と戦うという、貧乏臭さ。
こういう映画に『ダークナイト3部作』と同じ金額を払わなければならない。



石森章太郎(発表時はこの名前だった)の『人造人間キカイダー』は傑作なのだが、傑作を原作としているのに駄作しか作れないというのはどうしてなんだろうかと思う。
ストーリー開発にカネも時間も人材も投入していないのが明らかだ。
プロデューサーは大口など叩いていないで、まじめにシナリオライターの育成を考えたらどうだ。




『宇宙刑事ギャバン  THE MOVIE』も『キカイダー  REBOOT』も、子供の頃にTV版を見ていた中年以降の男性ファンは劇場に呼び込むことができる。
「思い出補正」でもって喜々として鑑賞する人も多いだろう。
しかし、そこまでだ。
新しく客になりそうな人には一向に届かない。
作品に思い出や思い入れがない人を惹きつけるものがないからだ。


人造人間キカイダー




<それがようやくここ数年で実写映画の分野にも広がってきたのではないかと。これはおこがましい言い方ですが、ようやく向こうが追いついてきた、という気構えでいます。>


<要するに、われわれがアメコミのヒーロー映画の後追いなど、するわけではないということです>


残念ながら、ハリウッドのヒーローもの映画が<追いついてきた>結果として、東映特撮映画の瑕疵がみっともないくらい明白になっている。
脚本、役者の演技、画作り、どれもこれもお粗末に過ぎる。ハリウッドのヒーロー物と同じ鑑賞料金というのが恥ずかしくないのか、と言いたい。

そもそもハリウッドのヒーロー映画と日本の特撮映画、東映の特撮映画を同じ目線で見る者などいない。

今回のエントリーを書きながら、未だに1954年の作品を例に持ち出さないといけないというのは、不幸である気がした。

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