『血界戦線 & BEYOND』、『いぬやしき』など、TVアニメ、それも深夜枠なのに驚くほど質が高いモノを観ると驚きを禁じ得ない。
画が美しくてよく動く。
声優も豪華なキャスティングだ。
テレビをつければ無料で観られるアニメなのに、びっくりさせられるデキだ。
よく動くアニメを視聴するのはほんとうに楽しい。快感である。
で。
Amazonビデオで、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第3章・純愛篇を観た。
これ、3,888円も取られるのだ。
TVアニメはTVをつければ無料で観られるのに、TVアニメ4本分で安くても3,800円。映画2本観るのよりも高いではないか。
イベント上映時に映画館で特別販売されるBlu-rayが1万円以上もする。
Amazonで買える、市販バージョンで7063円である。Amazonは値引きされて売られてるので、店で買うともう少し高い。
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』は、TVシリーズ2クールに相当する26本を7回に分割してシネコンで上映する形式。「第3章」で、TVでいうと10話まで上映された。
これは正式な映画興行とは異なるので、「イベント上映」と呼ばれる。
サッカーのパブリック・ビューイングや歌舞伎、演劇の中継、漫才、プロレスなどを大きなスクリーンを使って行われる「イベント」と同じように、TVアニメ(のフォーマットで制作されたアニメを)上映するというイベントだ。
アニメ作品でBlu-ray・DVDの販売促進を狙う方式は『機動戦士ガンダムUC』が始めた。
約1時間の作品を上映し、シネコン限定の先行販売Blu-rayを販売する。
珍しさもあってか、あるいはネットの評判が良かったのか、集客できた。
作画の質が高い。TV用のアニメとは一線を画し、これまで「劇場版」として作られた様々なアニメ映画の作画の質を、もしかしたら凌駕するくらいの質の高さだった。大きなスクリーンで観るに足るものだった。
それが評価されたからか、Blu-rayやDVDがよく売れた。
同じ手法を取った『宇宙戦艦ヤマト2199』もたいへん丁寧に作られていて、休眠状態にあった『ヤマト』ファン、もしくは『宇宙戦艦ヤマト復活篇』を観て失望したファンたちを覚醒させ、購買行動に走らせた。
この手法を踏襲しているのが『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』。
しかし。
視聴して驚きを覚えたのである。
何を言いたいか。
『宇宙戦艦ヤマト2202』はまことに驚くべき作品だ、ということである。
革命的と言っていい作品なのではないだろうか。
よくこんなので、高いカネを取ろうとしているな。
これが革命的だということの意味である。
『宇宙戦艦ヤマト2202』のビジネスは、ファンが要求する価値に見合わない低い価値のものを提供し、なのに高額な値段設定をするというビジネスである。
『宇宙戦艦ヤマト2202』は、現時点では高いカネを払わないと見られない。
映画よりも高くて、テーマパーク入場料並みのカネを取る配信サービスを利用するか、相も変わらず高い値段のBlu-ray、およびDVDを購入するしか観ることができない。
いま、日本で最も値段が高いアニメーションである。
だというのに、シナリオに難があって作画がダメでびっくりするくらい質が低くテレビで無料で視聴できるアニメ番組よりもはるかに劣ったクオリティで作品を提供している。
名の通ったブランドネームをパッケージに描き、ブランド価値に異様に高いプライスタグをつけて、粗悪な中身を売りつけるというビジネスである。
そのブランド価値は地に落ちてしまった。
まったく、〈革命的〉というより他にないではないか。
第11番惑星の岩塊に埋もれたヤマトの頭上に、おびただしい数のガトランティス増援艦隊が到着した。などというのが宣伝に書かれていたあらすじだ。
波動砲を封印した今のヤマトに為す術はない。
追い込まれた古代を見かね、ヤマトに密航していた森雪が姿を現した。
しかし、それで事態が好転することもなかった。
惑星シュトラバーゼへと立ち寄ったヤマトを、二つの巨大な罠が襲う。
ガミラスに革命を促さんとする反乱軍が、ヤマトを待ち構えていたかのようにシュトラバーゼを襲撃した。
混乱のさ中、古代はアケーリアス文明の遺跡でガトランティスの絶対的支配者と対峙する。
宇宙の真理としての絶対的な“愛”を滔々と語るズゥオーダー大帝は、「おまえの愛を示せ」と、古代に選択を迫る。
いうまでもなく、映像作品は出来上がって目にできるものがすべてだ。
どういったものだったか、振り返ってみる。
すぐに気がつくのは質の問題だ。
アニメの重要なファクターであるはずの、作画が悪い。
『宇宙戦艦ヤマト2199』の続篇だというのに、タッチが違う。
同じキャラクターデザインを採用しているが、画が崩れるのだ。
崩れてしまっている上に作画している人間のクセが出て、キャラクターの同一性も怪しくなってしまっている。
腕の劣るアニメーターが手がけているのが誰の目にも明らかである。しかも、作画のレベルをまとめる作画監督もいない。もしくはいても機能はしていない。
画はときに正視に耐えない。
人物はバストショットとか顔のアップが多用され、同じ画の使い回しも見られる。
作画枚数をケチっていると思わざるをえないが、カネがないのかスケジュールが逼迫しているのか、制作サイドの「苦境」が作品に浮き出ているのだ。
『ヤマト』の華である戦闘シーンはぱっとしない。
平面的で安っぽく見えるカットが頻出だ。
艦船はCGで描かれるが、コピー・アンド・ペーストを多用して数を増やしているのがまるわかり。
『宇宙戦艦ヤマト2199』は、CGを使いながらもCGぽさを消すためにかなり手間を掛けていた。そのことが、続編を見てわかった。
『宇宙戦艦ヤマト2202』ではそういった丁寧さはなくなってしまった。
10年以上も前のプレイステーションやセガサターン用ゲームに付いてくるムービーみたいなCGぽいメカ描写だ。
ガミラス艦には変な文様が描いてあるが、あれはディカールなんだろうか。
艦隊戦が見せ場になってないという、ヤマト。
作画の問題は、『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの宿痾だ。そこに戻ってしまった。
脚本も、カネを取っていいレベルではない。
担当は福井晴敏。
小説で食えなくなったんだか、行き詰って長いスランプに入ったんだか、商売として見切りを付けたんだかよく知らないが、テレビに出てアニメのことを語るようになり、いつのまにやら『ガンダム』や『ハーロック』の脚本家としてクレジットされるのを見るに至った。
で、今では『宇宙戦艦ヤマト2202』のシリーズ構成と脚本を担当している。
かれはかつて人気作家だった。
映画化作品もあった。
若い、すごい才能の出現ともてはやすメディアもあったように思う。
かれは人気作家だった。
が、今はそうではない。
「作家」という肩書の放つ〈幻想〉に目をくらまされる人がアニメ界には多いんだろうか。たとえ、作家としては〈終わった〉人であっても。
曲がりなりにも職業的に物語を書いてきた人間なのに、〈250万隻の艦隊〉などというものを出して、それがいいアイデアだなどと思ってるのか。
だとしたらシナリオライターを廃業したほうがいい。
そんなにたくさん戦艦持ってるんだったら、250万艦隊で地球を制圧すればいいではないか。
ところが、250万艦隊はヤマトが波動砲撃ったら発生した波動干渉波の影響で1隻残らず動かなくなって放棄。ガトランティス人は、「物を製造はできても修理することができない」という設定だとかで、気が遠くなる数の戦艦を放棄するのだ。
わけがわからない。
他のスタッフからの指示があってそんな脚本に書き改めたのだとでも言うのだろうか。だとしても、許容できるものでもない。
ほかのアニメからの借用としか思えない設定を持ち込んだりしてるのは、もう少し上手くやれないものか、と思う。ヤマトのファンだって、『ザンボット3』や『超時空要塞マクロス』なんかを観ている。
アメリカのTVドラマからも色々借用している。
『バトルスター・ギャラクティカ』、『スタートレック』、JJエイブラムスプロデュースの伏線だらけ大予算SFドラマとか、参考にした作品は色々あるようである。
というか、アメリカのTVドラマみたいなことをやりたいようだ。やたら伏線を張り巡らせ、視聴者に謎解きを迫るような描写を入れる。
うまくいくのかどうか。
この作品は最悪の場合には製作途中で中断もありうると思うけど、そうなれば広げた風呂敷があちこちに放置されたままたたまれることもなく終了、ということになる。
福井晴敏は「脚本・シリーズ構成」にクレジットされているが、もしかして、権限もなくて別の実権を持つ人間がいて書いてるんだろうか。
そもそもストーリーの質をコントロールしているのは誰なんだろうか。プロデューサーなのか。監督なのか。
他の黒幕でもいるのか。
ここに『宇宙戦艦ヤマト2202』の最大の問題がある。
『宇宙戦艦ヤマト2199』と『宇宙戦艦ヤマト2202』を比べると、ストーリーも人物の描写もあまりに違いすぎる。
『宇宙戦艦ヤマト2202』はチグハグなものごとが多く、作品のなかで要素がコントロールされていない。
もしかしたら、「演出」というものが存在していないのではないだろうか。
アニメは集団芸術とでも言うべきもので、参加するスタッフがアイデアや技能や知恵やノウハウや政治力やらなんやらを持ち込んでくる。それをうまく取り入れて整理して「作品」に反映する、責任者が不可欠である。
それが不在なのか、その立場の者が逃げ腰なのかわからないが、作品の〈世界〉が世界たり得ていない。
TVアニメを映画館で上映し、話題をつくるとともにクオリティを確かめてもらって気持ちよくBlu-ray/DVDを買ってもらう。
これがアニメをシネコンでイベント上映するプロモーションの趣旨であるはずだ。
その点で、『機動戦士ガンダムUC』『宇宙戦艦ヤマト2199』『機動戦士ガンダム The Origin』は、うまく行った事例だ。
何といっても劇場で上映できる質の高さがあった。
大きなスクリーンで観て、カネに見合う満足が得られた。
『宇宙戦艦ヤマト2202』はそうではない。
だからこそ、革命的なのだ。
予算もスケジュールも厳しくて良いスタッフがいなくてセンスのない演出で作画が不統一で下手くそなアニメを上映し、なおかつ一般的なアニメ作品よりも高いBlu-rayを売りつけ、高い配信料でもって視聴せよというのだ。
お客さんをお客さんと思っていない。
お客さんよりも高いところにいて、さあカネ払え見せてやるぞこれがヤマトの新作だ金払えと言ってるのだ。
この作品の瑕疵については、中高年のヤマトファンの阿鼻叫喚があふれているアマゾンレビュー欄でファンの方々が詳しくきびしく指摘している。
Yahoo!の映画レビューのページも、怒りと悲しみとに満ちている。
怒りの声を露わにしているのは一部で、物言わぬファンたちは黙って離反して、次から買わなくなるに違いない。それが抗議の表明である。
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第3章まで来て、すでにTVシリーズ10話に相当する部分までお披露目になった。
ここまで見て思うのは、これは失敗作であるということだ。
ご都合主義のストーリー、他の作品との類似もしくは剽窃、顔アップによる会話の連続で、人物描写が暑苦しい。
なんだか、西崎義展がプロデュースしてきた旧作品群のあのダメっぷりに堕していっていると感じる。
で、メカニズム描写ではなんとなく『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』に近いテイストも匂わせてきた。
もちろん、これからの残り16話で挽回できるのかもしれない。
その可能性は否定はしない。
しかし、現在のスタッフや制作体制から類推するに、事態の好転はきびしいだろう。
作画が『2199』よりも著しく劣るものになったのだから、もうここで仕切り直しだ。
かといって『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』ではファンの歓心を買えない。
こうなったら、最初のTVシリーズの線が太くて暑苦しくてデッサンも無視するタッチに戻して手書きで表情に雑な斜線が入るような作風を目指したらいいんじゃないかと思う。
ああ懐かしいって言って、昔からのファンは手を叩いて喜ぶと思います。
デッサン崩れても『ヤマト』は気にしないのがいいのです。
昔の絵柄に戻すとなれば、作画監督が実質上不在になって極端な話、カットごとに変わるというところまで戻ってもいいかもしれないですね。
え?
『宇宙戦艦ヤマト2202』の作画レベルに問題があって画が統一されていないことを問題視して作り直すのに、どうして旧作タッチで絵柄バラバラにするのかって?
それは、かれこれ40年以上も『ヤマト』を支えてきたファンへのプレゼントですよ。
そうそう、『ヤマト』は絵がコロコロ変わって雑でセルにくっついたゴミもそのまんまで、今思い返すとあれが〈味〉だったんだよな。
ああなんと懐かしいことだろうか。
こうこなくちゃ。
そう思っていただけると思うんですね。
だから、「バンクシステム」と言って似たような場面を使いまわすのもやれば、オールドファンは歓喜ですよ。
制作費も節約できるから、すごくいいじゃないですか。
Netflixによる日本アニメの世界展開、中国資本の日本アニメ界への参入という、「黒船」的な外部要因で業界は変化しようとしている。
が、『宇宙戦艦ヤマト』はそういった流れとは無縁だ。
新しい展開ができる可能性はない。
「戦艦大和」を改造した宇宙戦艦で、地球防衛軍に出てくる人種は日本人ばかり。最初の的なナチス・ドイツぽい帝国。
日本人たちの活躍で
もし、最初のシリーズを厳格に作り直したとする。こんなアニメを世界に向かって発信するコンテンツにする海外で幅広く人気を得る可能性はない。
ビジネスにならないから出資もない。
かと言って、多種多様な人種が登場する話にしたら、ただの凡庸な宇宙モノのアニメにしかならない。
「ああ、これなら『スタートレック』観たほうがいいよね」
ビジネスになる可能性は低いので出資者はいない。
翻って、日本のファンはそんなものはヤマトではないと言って拒否するだろう。
というわけで『宇宙戦艦ヤマト』が続くと仮定して、新しい潮流とは無関係に、老いたお客さんからカネをふんだくる、そんな未来しかない。
『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』、『ヤマトよ永遠に』『宇宙戦艦ヤマトⅢ』『宇宙戦艦ヤマト完結編』『宇宙戦艦ヤマト復活篇第1部』『宇宙戦艦ヤマト復活篇第2部』・・・・
『宇宙戦艦ヤマト2202』は古くからのファンが支えてくれているからこそ成立している。アニメファンのシルバー層が支えるという稀有な事例なのだ。
年齢を重ねたひとが多いということもあり、比較的カネを持っている人が多い。
当然、客単価も高く設定されている。
『宇宙戦艦ヤマト2202』はティーン・エイジャーだった頃に夢中になって、今でもファンを続けている老人たちの夢と幻想を吸ってこれからもダラダラと続く。
制作者はそのように考えているかもしれない。
TV4本分約100分を7日に分けて映画の体で上映してカネを取って、Blu-rayや商品を売って大儲けしたいのだ。
1回1,500円の特別料金×7回で、一人から10,500円取れる。毎回、1万円くらいマーチャンダイズ商品を買ってくれれば、一人あたりの客単価が10万円を超える。
10万円、1万人が映画館に来れば10億円。3万人くれば30億円。
客単価がさらに2倍なら、3倍なら・・・などと皮算用したかもしれない。
製作者たちは、ファンが離反するとは考えないのだろうか。
離反の動きはBlu-ray/DVDの売上が右肩下がりになっていることにすでに現れている。
いまは、高いBlu-rayでもなんでも買ってる。
ヤマトが大好きな老人が『ヤマト』に対する関心を失ったら、もしくは懐具合が寂しくなったらおしまいである。
そうなればBlu-rayやDVDのセールスが落ち込む。
そして迎える、アウト。
次回、第4章には〈実は生きていた〉デスラーが登場する。
リメイクなので既定路線といえばそうなのだが、『宇宙戦艦ヤマト2199』では死んだとしか思えない描写だったが、もうそういうつながりもどうでもいいのだろう。
予算が充分ではなく、いいスタッフが集まらなくて作画レベルが著しく落ちてしまい、ではその内容に酷評の嵐が吹き荒れた「第3章」に続く「第4章」公開である。
お客さんは付いてくるだろうか。

脚本も、カネを取っていいレベルではない。
担当は福井晴敏。
小説で食えなくなったんだか、行き詰って長いスランプに入ったんだか、商売として見切りを付けたんだかよく知らないが、テレビに出てアニメのことを語るようになり、いつのまにやら『ガンダム』や『ハーロック』の脚本家としてクレジットされるのを見るに至った。
で、今では『宇宙戦艦ヤマト2202』のシリーズ構成と脚本を担当している。
かれはかつて人気作家だった。
映画化作品もあった。
若い、すごい才能の出現ともてはやすメディアもあったように思う。
かれは人気作家だった。
が、今はそうではない。
「作家」という肩書の放つ〈幻想〉に目をくらまされる人がアニメ界には多いんだろうか。たとえ、作家としては〈終わった〉人であっても。
曲がりなりにも職業的に物語を書いてきた人間なのに、〈250万隻の艦隊〉などというものを出して、それがいいアイデアだなどと思ってるのか。
だとしたらシナリオライターを廃業したほうがいい。
そんなにたくさん戦艦持ってるんだったら、250万艦隊で地球を制圧すればいいではないか。
ところが、250万艦隊はヤマトが波動砲撃ったら発生した波動干渉波の影響で1隻残らず動かなくなって放棄。ガトランティス人は、「物を製造はできても修理することができない」という設定だとかで、気が遠くなる数の戦艦を放棄するのだ。
わけがわからない。
他のスタッフからの指示があってそんな脚本に書き改めたのだとでも言うのだろうか。だとしても、許容できるものでもない。
ほかのアニメからの借用としか思えない設定を持ち込んだりしてるのは、もう少し上手くやれないものか、と思う。ヤマトのファンだって、『ザンボット3』や『超時空要塞マクロス』なんかを観ている。
アメリカのTVドラマからも色々借用している。
『バトルスター・ギャラクティカ』、『スタートレック』、JJエイブラムスプロデュースの伏線だらけ大予算SFドラマとか、参考にした作品は色々あるようである。
というか、アメリカのTVドラマみたいなことをやりたいようだ。やたら伏線を張り巡らせ、視聴者に謎解きを迫るような描写を入れる。
うまくいくのかどうか。
この作品は最悪の場合には製作途中で中断もありうると思うけど、そうなれば広げた風呂敷があちこちに放置されたままたたまれることもなく終了、ということになる。
福井晴敏は「脚本・シリーズ構成」にクレジットされているが、もしかして、権限もなくて別の実権を持つ人間がいて書いてるんだろうか。
そもそもストーリーの質をコントロールしているのは誰なんだろうか。プロデューサーなのか。監督なのか。
他の黒幕でもいるのか。
ここに『宇宙戦艦ヤマト2202』の最大の問題がある。
『宇宙戦艦ヤマト2199』と『宇宙戦艦ヤマト2202』を比べると、ストーリーも人物の描写もあまりに違いすぎる。
『宇宙戦艦ヤマト2202』はチグハグなものごとが多く、作品のなかで要素がコントロールされていない。
もしかしたら、「演出」というものが存在していないのではないだろうか。
アニメは集団芸術とでも言うべきもので、参加するスタッフがアイデアや技能や知恵やノウハウや政治力やらなんやらを持ち込んでくる。それをうまく取り入れて整理して「作品」に反映する、責任者が不可欠である。
それが不在なのか、その立場の者が逃げ腰なのかわからないが、作品の〈世界〉が世界たり得ていない。
TVアニメを映画館で上映し、話題をつくるとともにクオリティを確かめてもらって気持ちよくBlu-ray/DVDを買ってもらう。
これがアニメをシネコンでイベント上映するプロモーションの趣旨であるはずだ。
その点で、『機動戦士ガンダムUC』『宇宙戦艦ヤマト2199』『機動戦士ガンダム The Origin』は、うまく行った事例だ。
何といっても劇場で上映できる質の高さがあった。
大きなスクリーンで観て、カネに見合う満足が得られた。
『宇宙戦艦ヤマト2202』はそうではない。
だからこそ、革命的なのだ。
予算もスケジュールも厳しくて良いスタッフがいなくてセンスのない演出で作画が不統一で下手くそなアニメを上映し、なおかつ一般的なアニメ作品よりも高いBlu-rayを売りつけ、高い配信料でもって視聴せよというのだ。
お客さんをお客さんと思っていない。
お客さんよりも高いところにいて、さあカネ払え見せてやるぞこれがヤマトの新作だ金払えと言ってるのだ。
この作品の瑕疵については、中高年のヤマトファンの阿鼻叫喚があふれているアマゾンレビュー欄でファンの方々が詳しくきびしく指摘している。
Yahoo!の映画レビューのページも、怒りと悲しみとに満ちている。
怒りの声を露わにしているのは一部で、物言わぬファンたちは黙って離反して、次から買わなくなるに違いない。それが抗議の表明である。
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第3章まで来て、すでにTVシリーズ10話に相当する部分までお披露目になった。
ここまで見て思うのは、これは失敗作であるということだ。
ご都合主義のストーリー、他の作品との類似もしくは剽窃、顔アップによる会話の連続で、人物描写が暑苦しい。
なんだか、西崎義展がプロデュースしてきた旧作品群のあのダメっぷりに堕していっていると感じる。
で、メカニズム描写ではなんとなく『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』に近いテイストも匂わせてきた。
もちろん、これからの残り16話で挽回できるのかもしれない。
その可能性は否定はしない。
しかし、現在のスタッフや制作体制から類推するに、事態の好転はきびしいだろう。
作画が『2199』よりも著しく劣るものになったのだから、もうここで仕切り直しだ。
かといって『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』ではファンの歓心を買えない。
こうなったら、最初のTVシリーズの線が太くて暑苦しくてデッサンも無視するタッチに戻して手書きで表情に雑な斜線が入るような作風を目指したらいいんじゃないかと思う。
ああ懐かしいって言って、昔からのファンは手を叩いて喜ぶと思います。
デッサン崩れても『ヤマト』は気にしないのがいいのです。
昔の絵柄に戻すとなれば、作画監督が実質上不在になって極端な話、カットごとに変わるというところまで戻ってもいいかもしれないですね。
え?
『宇宙戦艦ヤマト2202』の作画レベルに問題があって画が統一されていないことを問題視して作り直すのに、どうして旧作タッチで絵柄バラバラにするのかって?
それは、かれこれ40年以上も『ヤマト』を支えてきたファンへのプレゼントですよ。
そうそう、『ヤマト』は絵がコロコロ変わって雑でセルにくっついたゴミもそのまんまで、今思い返すとあれが〈味〉だったんだよな。
ああなんと懐かしいことだろうか。
こうこなくちゃ。
そう思っていただけると思うんですね。
だから、「バンクシステム」と言って似たような場面を使いまわすのもやれば、オールドファンは歓喜ですよ。
制作費も節約できるから、すごくいいじゃないですか。
Netflixによる日本アニメの世界展開、中国資本の日本アニメ界への参入という、「黒船」的な外部要因で業界は変化しようとしている。
が、『宇宙戦艦ヤマト』はそういった流れとは無縁だ。
新しい展開ができる可能性はない。
「戦艦大和」を改造した宇宙戦艦で、地球防衛軍に出てくる人種は日本人ばかり。最初の的なナチス・ドイツぽい帝国。
日本人たちの活躍で
もし、最初のシリーズを厳格に作り直したとする。こんなアニメを世界に向かって発信するコンテンツにする海外で幅広く人気を得る可能性はない。
ビジネスにならないから出資もない。
かと言って、多種多様な人種が登場する話にしたら、ただの凡庸な宇宙モノのアニメにしかならない。
「ああ、これなら『スタートレック』観たほうがいいよね」
ビジネスになる可能性は低いので出資者はいない。
翻って、日本のファンはそんなものはヤマトではないと言って拒否するだろう。
というわけで『宇宙戦艦ヤマト』が続くと仮定して、新しい潮流とは無関係に、老いたお客さんからカネをふんだくる、そんな未来しかない。
『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』、『ヤマトよ永遠に』『宇宙戦艦ヤマトⅢ』『宇宙戦艦ヤマト完結編』『宇宙戦艦ヤマト復活篇第1部』『宇宙戦艦ヤマト復活篇第2部』・・・・
『宇宙戦艦ヤマト2202』は古くからのファンが支えてくれているからこそ成立している。アニメファンのシルバー層が支えるという稀有な事例なのだ。
年齢を重ねたひとが多いということもあり、比較的カネを持っている人が多い。
当然、客単価も高く設定されている。
『宇宙戦艦ヤマト2202』はティーン・エイジャーだった頃に夢中になって、今でもファンを続けている老人たちの夢と幻想を吸ってこれからもダラダラと続く。
制作者はそのように考えているかもしれない。
TV4本分約100分を7日に分けて映画の体で上映してカネを取って、Blu-rayや商品を売って大儲けしたいのだ。
1回1,500円の特別料金×7回で、一人から10,500円取れる。毎回、1万円くらいマーチャンダイズ商品を買ってくれれば、一人あたりの客単価が10万円を超える。
10万円、1万人が映画館に来れば10億円。3万人くれば30億円。
客単価がさらに2倍なら、3倍なら・・・などと皮算用したかもしれない。
製作者たちは、ファンが離反するとは考えないのだろうか。
離反の動きはBlu-ray/DVDの売上が右肩下がりになっていることにすでに現れている。
いまは、高いBlu-rayでもなんでも買ってる。
ヤマトが大好きな老人が『ヤマト』に対する関心を失ったら、もしくは懐具合が寂しくなったらおしまいである。
そうなればBlu-rayやDVDのセールスが落ち込む。
そして迎える、アウト。
次回、第4章には〈実は生きていた〉デスラーが登場する。
リメイクなので既定路線といえばそうなのだが、『宇宙戦艦ヤマト2199』では死んだとしか思えない描写だったが、もうそういうつながりもどうでもいいのだろう。
予算が充分ではなく、いいスタッフが集まらなくて作画レベルが著しく落ちてしまい、ではその内容に酷評の嵐が吹き荒れた「第3章」に続く「第4章」公開である。
お客さんは付いてくるだろうか。
>アメリカのTVドラマみたいなことをやりたいようだ。
返信削除実は、これをやって大成功したのが『ガンダムUC」なんですね。
映画っぽいアニメをつくる監督に、ハリウッド節全開の作曲家のおかげだと思いますが。
ご本人と出資者が、この成功体験を忘れられなかったんでしょう。
『神撃のバハムート GENESIS」ってアニメはご覧になりましたか? 『いぬやしき』の監督・作画のコンビが作った作品ですが、クォリティーが凄まじいです。その辺の劇場版を軽く凌駕してます。続編の方は少し落としたようですが、それでもテレビアニメの水準を超えてます。
アメリカのTVドラマみたいに風呂敷を広げて伏線をたくさんいれこむのは別にかまわないのです。が、アメリカのTVドラマの大半は視聴率が悪いとか有料配信で視聴する人が少ないとかの事情があると、打ち切りになって慌てて風呂敷を畳むのはまだまし、放りっぱなしも多いですからね。
削除『宇宙戦艦ヤマト2202』は慌てて風呂敷畳むんじゃないかと思います。
カネも人材もないから制作体制が破綻するか、視聴者が愛想つかして配信を見ないとか、ブルーレイを買わないとかでビジネスが成立しなくなるとか。
もう、どうでもいいような心境です。
『神撃のバハムート GENESIS」、見てました。恩田尚之の作画力はすさまじいなと驚きました。TVアニメのなかに、ときどきびっくりするくらいレベルの高いものがあって、そういうのに出会うのは楽しいことだと思います。