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2017/04/28

フェイク心霊ものは何となく許容される。 『Not Found外伝 いま、霊に会いにゆきます』

幽霊が見たいので、実話心霊ビデオを漁って見ている。

ジャケットのブキミさにほだされて、『Not Found外伝 いま、霊に会いにゆきます』を観てみた。
『Not Found』シリーズとは、ディレクター古賀とAD杉本が数々の心霊現象を取材したり、ネットから削除されたヤバイ動画について調べたりするという人気シリーズである。

『Not Found』ってヤラセですよね、などと言うのは「ウルトラマンって中に人が入ってて本当は等身大ですよね」などとシタリ顔して指摘するようなどうしようもない愚かさが感じられるので、言わない。

<実話心霊ビデオ>として、きちんとできてるのかどうか。
それを気にしながら見た。









見よ。
心霊体験談募集の告知に対して、幽霊が応募してきた。
この男は幽霊なのだ。
『Not Found外伝 いま、霊に会いにゆきます』は、製作者自体のドキュメントである。

2週間で『Not Found』シリーズのスピンオフ作品を作れ、と会社から厳命されたディレクターの古賀とADの杉本。


時間がない中、ディレクターの古賀とADの杉本「自分は幽霊である」と書いてきた男の取材に行くことにした。

幽霊男は山田という。

古賀ディレクターは、幽霊だという証明を求める証明せよというが、山田は逆に「あなたが人間だと証明できるのか?」などと言って、答えをはぐらかす。

山田の住まいにいくと、そこは朽ち果てた廃ホテルだった。
そこに寝泊まりしているという。

どうみてもホームレスだ。

時間がないので、古賀は山田を使った心霊のヤラセ動画を作ることにした。
山田は、古賀のキビシイ演出にいちどは気分を害してもう出ないと言った。しかし、その後打ち解けてふたりは楽しくお酒を飲むのである。


無事、ヤラセ動画の撮影も終了した。
しかし、なぜかちゃんと撮影できていないというトラブルが発生した。
古賀は、山田に再度出演を要請するが、山田はさらなるギャラを要求してきた。
ギャラの折り合いがつかないうちに、かれは行方不明になった。

AD杉本は、かれの住まいである廃ホテルで山田のケータイを発見する。
ケータイには、動画が保存されていた。
血塗れにまみれたナタを持った山田、血まみれになって床に倒れる女性が映っていた。



古賀とAD杉本は山田について調査する。
山田は、かつてバス会社に勤めていた。
かつて、山田は勤務中に交通事故を起こした。人が亡くなった。
世間の非難を浴びた山田は、妻子を殺害したのち、自殺したのだという。

山田の自宅に向かう。
今は誰も住んでいない家である。
窓から山田が不気味な姿をのぞかせる。




その直後、古賀ディレクターの様子が一変する。
杉本に鉈で襲い掛かる。
古賀は、山田が勤めていたバス会社のCMのメロディを口ずさむ。
杉本は古賀に逆襲して、倒した。

古賀は杉本に倒されたときに負った傷の治療のために入院する。
古賀は山田の家で起こったことを何ひとつ覚えていない。それどころか、逆自分を負傷させた杉本に文句をいう。

山田の行方もつかめず、終了。

山田が、われわれと何ら変わらない姿で登場する。

これは幽霊なるものを鮮明に捉えたスクープ映像のはずである。
然るべき方法で公表したら、世界中が大騒ぎになるだろう。
どうして貸しビデオ屋用のビデオで紹介しているのか。

黒沢清監督の『岸辺の旅』は、浅野忠信が死者なのに生前と全く同じ姿で帰ってきて妻と旅したりするのだが、これを先取りしているのではないだろうか。
ギャラをしつこく要求したり、ヤラセ演技に対して、幽霊の立場で「こんな振舞いはしないよ」と怒ったり、居酒屋で酒をグビグビ飲んで楽しそうだとかしている。
「幽霊」がキチンと定義されてないように感じた。
廃墟になったホテルで住む山田は、レンタルビデオの会員証は作れないと思うが、どうやって『Not Found』を見ているのか、どうやって「心霊体験談募集」の告知を見たのか、いかなる手段でメールを送ってきたとかそういう話は一切しない。
ただ、「奇妙な応募があった」と紹介して会いに行くのだ。
山田が勤務中にバスで死亡事故を起こしているとか、妻子を殺しただとか、そのへんはモザイクで顔を覆った栃木訛の男たちのコトバで語られるのみで、新聞記事や当時のニュース映像を調査し、その結果を報告する場面はない。
くわしく調査したら、山田のリアリティはぐっと上がっただろうに。
どこのお話だとか、そういう地理的な属性もまた、排除されている。

半ばでカメラマンが現場にカメラを置いて逃亡してしまう。
カメラマン逃亡後、誰が撮影していたのかだとか、カメラマンは戻ったのかだとか処分されたのかとかは触れられていない。
ディレクターの古賀は「ヤラセ」を許容している人物となっている。
仕事への矜持がないのか。
というよりも、いつもその場限りでコロコロ主張が変更できる人物にしか思えない。

あと、冒頭は「2週間で『Not Found』シリーズのスピンオフを作れ」と会社に厳命されていたはずが、最後は古賀が10日入院して久々の休暇になった、とか言っている。
すぐに作って納品するはずの、スピンオフの話はどこかに飛んでいっちゃってる。
「それっぽい映像」に夢中になるとがディテールなどどうでもよくなるのは、実話心霊ビデオの醍醐味といえる。
納期に追われ、低予算に喘いで、まともなシナリオと演出は存在しない。「実話心霊ビデオ」の体裁を整える余裕もないようだし。


というわけでおすすめ。




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