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2017/02/03

100円と70分の時間を損した気分とビデオ用映画

今どき、メジャーな映像作品を観たかったら、インターネットで有料配信サービスを使えばほとんどの場合はすぐ鑑賞できる。

便利だ。
でも、映像好きたるもの、珍しい、他所では観られないような作品が観たいではないか。
知られざる、痺れるような傑作に出くわすかもしれない。

珍しい映像作品を見ようと思ったら、レンタルDVD屋に行くというのがいい。





ビデオ用映画の棚に到達する前に、このようなDVDを手にとってしまう。
心霊ものが好きな人はけっこういるのだろう、パッケージの数は多い。

心霊DVDを持ちつつ、ビデオ用映画のコーナーに行く。
聞いたことのないタイトルの新作が並んでいる。






ヒットした映画や、マンガ、テレビドラマ、アニメなどのタイトルとちょっと似たタイトルを付けてあって、手に取れば自分の知らない監督が自分が知らない役者さんを使って撮ってる作品だ。



ひょっとすると、レンタルDVD屋には人知れず傑作が眠っているのではないか、という期待のようなものがあって足を運ぶ。
ハリウッド版『ゴジラ』や『ローグ・ワン』を撮ったギャレス・エドワーズは、予算が200万かそこらの自主制作怪獣映画『モンスターズ』がブロックバスター映画のプロデューサーの目に止まり、才能を認められたのである。



もしかしたら、将来『ゴジラ』とか『ガメラ』とか『ガッパ』とか『宇宙からのメッセージ』のリブートを撮る才能がビデオ用映画を撮っているかもしれないということではないか。

東映Vシネマ(Vシネマは一般呼称ではなくて、東映の登録商標だ)の初期は面白い作品がけっこうある。
そんな中でも文句なしに面白いのがこれだ。
きうちかずひろ監督・竹中直人主演の『カルロス』は、ブラジルから逃亡してきた日系ブラジル人の殺し屋の話で、バイオレンス描写と、きっちり描かれた銃器の描写に基づいたガンアクションが魅力的である。
撮影は、松田優作の主演作品などを撮ってる名キャメラマン・仙元誠三でまともに映画として撮られている。

「映画として」が重要だ。
ビデオ用映画には、映画ぽく撮られていない、下手したら民生用カメラで撮影してパソコンでフィルムぽい画質にしていたりするのだ。


清水崇監督『呪怨』は必見である。

このVシネマ作品が評判となり、『呪怨』は劇場版、ハリウッド版、リブート版、ついには貞子と対決する映画まで作られるという、ジャパニーズホラーのアイコンになった。
Vシネマ版は低予算ながら、ホラーとしてはこれがいちばん。
伽椰子の怖ろしさに眠れなくなる。
栗山千明の美少女ぶりも際立っている。



とまあ、これは例外というべき作品。







世界のすべての男どもが女をレイプすることしか頭にないという<レイプゾンビ>になってしまった。
レイプゾンビにレイプされて中出しされた女は身体に毒が回って死んでしまう。
レイプゾンビ化するメカニズムは不明だが、なぜか3次元の女に興味のない童貞のオタクだけはレイプゾンビにならないのだという。
これは観ていて演技がひどい、特殊効果に難点、ストーリーも粗雑という3拍子揃ったビデオ用映画だった。
しかし、レンタルでは好評らしく、シリーズ化されて5までリリースされている。
借りて観てみたいという人が一定の数いるのだろう。

こういうのがいっぱいある。

1本100円の料金だから、と思いつつビデオ用映画を物色して借りる。
が、家に戻って再生して観終わって100円と、そのビデオ用映画の視聴時間70分から90分がムダに思えてしまうのだ。
これなら、名作とか海外ドラマのほうが良かったのではないか。
そういう疑念に駆られる。

しかし、次に借りるときも、わずかな期待を抱いてビデオ用映画のコーナーを目指す。

ビデオ用映画の大半は、ヤクザ映画とエロ映画、ホラーである。
固定客がいて、借りていく。
映画オタクの観る映像作品とは違う世界があるのだ。
で、そういう作品は好みではなくて手が伸びない。

ビデオ用映画を観ていると、日本には名もないような役者さんがたくさんいるのだということに気づく。
大学の演劇科とか、劇団の研究生とかで演技の訓練も積んだであろう人たちが、主演のお笑いタレントやAV女優の脇役とかチョイ役でテンションの違う芝居をしたりする。
おちゃらけた演技とも呼べない演技、表情も作れず棒読みセリフの主役と、口舌のはっきりした演技の訓練の跡がわかる端役のひとびと。

ビデオ用映画というのは切ない。
ビデオ用映画の監督さんが、ツイッターでこんなことをつぶやいている。

「撮影現場でメシを出さないとか、交通費が出ない現場がある。メシと交通費ぐらい出せ」

「ギャラ不払いの現場がある。嘆かわしい」

「出演者もスタッフもどんどんソーシャルメディアで宣伝しろ。そうすると注目されておれたちの生活も良くなる」


などと何度も投稿している。

ビデオ用映画の予算とか現場のことが何となく想像できる。
ツラい話だ。
70分くらいの作品でも、200万円以下で制作されているものがあるという話も、知り合いのビデオ制作を手がける人から聞いたことがある。

今や、レンタルDVDでまだ観ぬ才能に出会うことには諦めの気分がある。

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