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2016/06/30

『宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち』は、中高年アニメ市場で金儲け(できるのか?)

中高年アニメ市場の話をする。

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』という新作アニメが、現在制作進行中である。
この作品は、1978年の『さらば宇宙戦艦ヤマト〜愛の戦士たち』を映画館で見たファンをターゲットにしている。

『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』は早くて2016年末、もしくは2017年初めに劇場イベント上映が始まると思われる。
ビジネスの中心はBlu-ray&DVD販売であり、マーチャンダイズ商品の販売である。
その後、TV放映・配信と展開していくだろう。

つまりは、『宇宙戦艦ヤマト2199』の成功例を踏襲しようとしている。
『宇宙戦艦ヤマト2199』が中高年のファンから累計で100億円以上を収奪するという、これまでに「ヤマト」の名を冠した映像作品でもっとも大きなビジネス的成功を収めた事例をなぞって大儲けしようという試みだ。

朽ちてしまったかに見えるヤマト。
これはヤマトのファンクラブ会報の表紙だ。
上得意の囲い込みに「会員制度」を使うあたりで、作品の世代がわかる。かつて『宇宙戦艦ヤマト』を制作した西崎義展は、ファンクラブを作ってファンを呼び寄せた。かつてヤマトに夢中になってファンクラブに入っていた人たちにとっては懐かしくうれしいサービスかもしれない。
それにしてもこの毀れたヤマト。ミスリードを誘うビジュアルなんだろうか。






悲壮感と死の匂いが基調にあった、『さらば宇宙戦艦ヤマト〜愛の戦士たち』を創り直すかにみえる、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』。
さて、皮算用どおり、中高年ファンはこの作品に踊ってくれるんだろうか。気前よく金を使ってくれるのだろうか。
 『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』は3つの観点から、中年と老人向けに作られるアニメーションである。

ひとつは、1978年に映画として制作されて大ヒットした『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』をもとにしたリブート作品であるからである。
制作側の人間たちは、1978年当時『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』を熱狂的に支持したティーンエージャーだった人たちは中高年になった今、きれいに作りなおした作品を受容するだろうと踏んでいるのだ。

たとえ約40年の時間を経ていたとしても、年を重ねたかつてのファンたちがアニメを見ることはわかっている。
『宇宙戦艦ヤマト2199』の成功がそれを明らかにした。
ついでに言えば『スターウォーズ : フォースの覚醒』も企画を推進するときの追い風になったと思われる。世界のあちこちで、老いたファンたちが劇場に押し寄せ、Blu-rayやDVD、マーチャンダイズ商品を買い求めた。
かつて『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』を映画館で見て滂沱の涙を流した世代は、こんどはイベント上映のシネコンを埋め尽くし、Blu-rayやDVD、マーチャンダイズ商品を山のように購入してくれることを期待されているのだ。




ふたつめは『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』のビジネスが、Blu-rayやDVDというパッケージを販売することを中心に据えているということだ。
いま、Blu-rayやDVDを好んで買うのは中高年の人たちである。

アニメのビジネスは、時代によってビジネスの柱が変わる。

1960年代から80年代半ばまでのTVアニメは、スポンサーが収入源のテレビCMだった。午後6時半〜午後8時までの時間帯は、アニメに占拠されていた。
スポンサーは玩具メーカーやお菓子メーカー、飲料メーカーなど、子供向けの商品を扱うところがほとんどである。
だから、それらの会社の主たる客層である小学生に受けがいいロボットやメカが多数登場することが絶対だった。
ロボットもメカもキチンと目立って購買意欲をかきたてる描写をすること。
「商品」の購買意欲を刺激するのが第一だったので、ストーリーはおざなりだった。「子供にわかるように」を大前提にして「CM」の役割を外さない内容だった。

80年代後半、ビデオテープやレーザーディスクによるセールスとレンタルを販路とするOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)が登場した。
OVAは、玩具メーカーなどのスポンサーの意向を聞き入れなくても制作が可能となった。それまでテレビアニメで視聴者の年齢層や嗜好を限定した作品は視聴率を取れないために作りにくい状況にあったが、OVAはそのような作品の制作を可能にした。
個人の、しかも比較的高年齢で可処分所得も多いアニメファンが自らの好みの作品を購入することがわかるや、それらの層を対象にした作品も作られるようになっていった。
セル媒体は、テレビの放送コードや内容的な制約から自由な作品を産むようになった。

注目すべきは、ビデオテープやレーザーディスク、今ではDVDやBlu-rayなどセル媒体の価格設定である。
OVAの市場では圧倒的強者であるバンダイ・ビジュアルは、大変高額な値段をつけてきた。ほかの会社も追随した。
プレス数が少ないだとか、特典映像が付いているだとかなんとか理由をつけているが、要は、客単価をできるだけ高くして儲けたいのだ。
これは今に至るも変わらない。
アニメファンの属性をしっかり把握している、または足元を見てる。そういうやり口だ。
アニメファンのなかには、
「キレイな画質・音質で好きな作品を手許においておきたい」と思う人々が多くいる。
かれらはいち早く高額だったビデオデッキを購入して、これまた高額なビデオテープに録画して保存したりしていた。
そういった人々は、セル媒体が登場すると手を伸ばした。テレビ放映の、時間表示やテロップ表示や不意の地震速報や臨時ニュースの表示を嫌う人々には福音だった。

セル媒体主体のビジネスモデルは、やがて深夜の時間帯に1クール(3ヶ月12回放送)のアニメを放映→DVD・Blu-ray販売が主流になる。


http://www38.atwiki.jp/uri-archive/pages/76.html

『機動戦士ガンダムUC』は、テレビ放映ではなく、映画館でのイベント上映→DVD・Blu-ray販売というビジネスモデルを成功させた。
『宇宙戦艦ヤマト2199』がこれに続いた。




『宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち』もこのビジネスモデルで、映画館でのイベント上映をプロモーションとしてDVDやBlu-rayを売るのだ。

アニメビジネスはいま転換点にある。
動画のネット配信市場が伸長してきて、深夜時間帯のアニメ放映からセル媒体販売主体の市場は今後縮小に向かっていく。
おカネを出して、ネットでアニメを見る。
また、海外におけるアニメ配信の配信料・版権収入も大きくなる。

「キレイな画質・音質で好きな作品を保存したい」世代はいずれは退場していく。Blu-rayやDVDの市場も小さくなる。
小さくなるが、4K対応メディアとか出てきて、一定のマーケットは存続するんだろう。




『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』は、中年と老人向けに作られるアニメーションである。
その3つめの理由は、『宇宙戦艦ヤマト』という物語がいまのアニメ市場のコアになっている層にまったく届かないものだからだ。関心も持たない。

『宇宙戦艦ヤマト』最初のTVシリーズは、地球を滅亡の淵から救う使命を帯びて悲壮で過酷な旅をする物語である。西遊記の翻案であり、1940年代からある古典的なSFのジャンル、<スペース・オペラ>に属する古い物語である。
また、古代進が試練を通じて成長していく姿を描き、沖田十三という「父親」との相克を描いている。
こんな話をいま企画書に書いて、ターゲットに「若者」などと書いたら、まずボツだ。
「古いよ」と言われて突っ返されておしまいだ。

しかし、「古くさい物語」だからこそ、それを求める人も出てくるのが現代なのだ。
ティーンエイジャーの頃にアニメを見ていた世代が、今も好みに合うアニメは見る。しかも、それもDVDやBlu-rayをちゃんと買ってくれる。
昔のアニメの作りなおしの企画書を書き、ターゲットに「中年・シルバー世代」と書くと採用される可能性はある。

いまのアニメ市場の主流と、『宇宙戦艦ヤマト2199』『宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち』が作る市場は、経済圏がまるで異なる。
それが現在のアニメ市場である。
アニメ市場が大きなものになって、世代別の市場がすでにできているのだ。

さて、『宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち』は中高年アニメ市場で金儲けできるのだろうか。
実のところ、<中高年アニメ市場>は失敗事例も多いのだ。

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