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2016/02/11

劇場版『仮面ライダー』の観客はマゾ。

平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊』という映画がある。
平成仮面ライダーに昭和の仮面ライダーがスラリと揃って登場する。
しかもライダーどうしが闘うのだから豪華だ。
マーベルヒーローが結集して闘う『アべンジャーズ』など足元に及ばない。なんと、アベンジャーズが対立して戦うという、『キャプテンアメリカ シビル・ウォー』を先取りしてるではないか。
アベンジャーズとは人数からして違うのだ、仮面ライダーは。
しかも、スーパー戦隊まで登場する豪華さだ。

ゴージャスである。



初代仮面ライダー・本郷猛を演じた藤岡弘、もさっそうと登場して他の役者陣とはまったく風格というかテンポが違う演技を見せている。
小劇団の公演に、歌舞伎の役者が参加し、歌舞伎のままのテンションでもって芝居しているような感じになっている。
おもしろい。
ホストクラブのホストと、小料理屋の頑固オヤジが同じ画面で何ごとかを演じる。
昭和ライダーの役者と平成ライダーの役者のテンポの違いというか違和感ありまくりな有り様がすごく面白い。




『仮面ライダー』と名のつく映画はたくさんある。

『仮面ライダー』の映画は年に2本のペースで公開されている。
平成仮面ライダーのシリーズで合計35本(2016年2月現在)。
どの映画も熱心なファンが駆けつけて盛況である。

2015年に公開されたものに『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』という映画がある。
仮面ライダー3号は昔、石森章太郎のマンガにちらりと出てきたのだという。

映画版の『仮面ライダー』の観客には年齢の高い人も多いので、そういう人たちを動員することはビジネス上、重要だ。(昔からのファンは「昭和組」と呼ぶらしい)
それで、<昭和ライダーのイメージ>でもって引っ張るのである。


Amazonの『仮面ライダー3号』Blu-ray版のレビューは、発売前だというのにネタバレのレビューが載っていた。無神経なことだ。



仮面ライダー映画は50本以上もある。

調べてみると、『仮面ライダー』の名を冠した映画は50本を超えているというのが驚きである。この数字には「東映まんがまつり」で上映されたTVドラマ1本分の20数分のタイトルも含んでいるが、驚くべき本数だ。
とりわけ、『平成仮面ライダー』シリーズに入ってから、本数が増えている。

東映は『仮面ライダー』映画に金脈を発見したらしい。
2010年以降の作品を挙げてみる。
仮面ライダー×仮面ライダー×仮面ライダー THE MOVIE 超・電王トリロジー
    2010年公開。仮面ライダーシリーズ初の3作品連続公開作品。

    EPISODE RED ゼロのスタートウィンクル
        5月22日公開。
    EPISODE BLUE 派遣イマジンはNEWトラル
        6月5日公開。
    EPISODE YELLOW お宝DEエンド・パイレーツ
        6月19日公開。

仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ
    2010年8月7日公開。2D&デジタル3D同時公開。

仮面ライダー×仮面ライダー オーズ&ダブル feat.スカル MOVIE大戦CORE
    2010年12月18日公開。

オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー
    2011年4月1日公開。
 仮面ライダーシリーズ生誕40周年記念・東映創立60周年記念作品。

劇場版 仮面ライダーオーズ WONDERFUL 将軍と21のコアメダル
    2011年8月6日公開。2D&デジタル3D同時公開。
 仮面ライダーシリーズ生誕40周年記念作品。

仮面ライダー×仮面ライダー フォーゼ&オーズ MOVIE大戦MEGA MAX
    2011年12月10日公開。
 仮面ライダーシリーズ生誕40周年記念作品。

仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦
    2012年4月21日公開。
 仮面ライダーシリーズ初のスーパー戦隊シリーズとの共演作。

仮面ライダーフォーゼ THE MOVIE みんなで宇宙キターッ!
    2012年8月4日公開。

仮面ライダー×仮面ライダー ウィザード&フォーゼ MOVIE大戦アルティメイタム
    2012年12月8日公開。

仮面ライダー×スーパー戦隊×宇宙刑事 スーパーヒーロー大戦Z
    2013年4月27日公開。
 メタルヒーローシリーズ初の仮面ライダーシリーズ&スーパー戦隊との共演作。
劇場版 仮面ライダーウィザード in Magic Land
    2013年8月3日公開。
仮面ライダー×仮面ライダー 鎧武&ウィザード 天下分け目の戦国MOVIE大合戦
    2013年12月14日公開。
 平成仮面ライダーシリーズ15作記念作品。
平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊
    2014年3月29日公開。
 平成仮面ライダーシリーズ15作記念作品。
劇場版 仮面ライダー鎧武 サッカー大決戦!黄金の果実争奪杯!
    2014年7月19日公開。
仮面ライダー×仮面ライダー ドライブ&鎧武 MOVIE大戦フルスロットル
    2014年12月13日公開。
劇場版 仮面ライダードライブ サプライズ・フューチャー
    2015年8月8日公開。
仮面ライダー×仮面ライダー ゴースト&ドライブ 超MOVIE大戦ジェネシス
    2015年12月12日公開。
スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号
 2015年3月21日公開。
仮面ライダー1号
    2016年3月26日公開予定。
 仮面ライダーシリーズ生誕45周年&スーパー戦隊シリーズ40作品記念
 スーパーヒーローイヤー2016年スペシャルプロジェクト第1弾。


劇場版『仮面ライダー』って、なぜこんなにタイトルが長い作品が多いのだろう。
タイトルを長くすると興行成績が良くなるというおまじないでもあるんだろうか。
新聞や雑誌の「テレビ番組表」に載っている、番組サブタイトルのようだ。
たとえば、『スター水泳大会 水着だらけの真夏の水泳大会!!おっぱいポロリもあるよ!!!』というような。作ってる連中がテレビ屋なので、惹句を長くしないと不安に感じるのか。
タイトルでもって釣って、映画館に呼びこもうというような意図なんだろうか。

仮面ライダー映画は「映画」というよりも、
シネコンで行われる有料イベントである。

仮面ライダーの「映画」は、いったいいかなる映画なのか。
タイトルにしてから、我々がイメージする「映画」とは違ったスタンスである。
平成仮面ライダーが登場する映画には共通する特徴がある。

まず、劇場版と称する『仮面ライダー』は、テレビシリーズの合間に撮影されるということ。
『仮面ライダー』をビジネスとして考えると、テレビ放映を重視し、玩具や各種のグッズだとか本だとか、そういったモノの売上向上をめざす。
当然、映画興行はテレビシリーズの副次的な仕事である。
だから、当然のように突貫工事で撮影される。
制作スタッフもキャストもTVシリーズと重なる事が多い。
次に、突貫で制作されるためなのか、シナリオが吟味されている形跡はない。
恐ろしく粗雑なストーリーが、薄っぺらい人物によって展開する。
歴代の仮面ライダーがとっかえひっかえ出てくる。
同じ世界とは思えないものもあるが、「次元移動」するとか「平行世界」で無理やり整合性を付けてる。
が、そんなことは実際どうでもよくて、絵面として仮面ライダーが共演しているということに意味を求めているのだろう。
突貫工事でもって年に2本、ときに3本もつくられる。
VFXとCG頼みで、それ以外の部分には大した予算を投入していない。それは見ていると端々で感じられる。
良くいえば、ヒーローもののフォーマットながらも、東映に脈々と受け継がれてきたプログラムピクチャーの系譜にあると言えないこともない。
しかし、実際は、低予算で作った粗雑な大画面用TVドラマ長尺版をシネコンにかけてカネを取る「イベント」である。
だが、粗雑な品物でも喜んで買う人がいる。そういうお客さんに応えているのだ。

仮面ライダー映画も大予算で撮られた
マーベルヒーローの映画も料金が同じ。

観客は作品の出来については諦念を持っているファン、とくにオールド・ファンは多い。
プロデューサーであったり監督であったり、脚本家の名をあげて「あの人なら仕方がない」などとブログに書いている者も少なくない。

仮面ライダー映画の瑕疵についてはあちこちで語られている。

シナリオがひどい。時間をかけていないし、もしかしたら整合性のチェックすらしていないのではないか。
キャラクターがきちんと整理されていないので、誰に感情移入して良いかがわからない。
画づくり優先で登場人物が動くので、辻褄の合わないことが次々と出てくる。
シナリオのギミックも要素も過去の仮面ライダー映画の焼き直しが頻繁に出てくる。
名台詞と思われるようなものを何の積み重ねも無くキャラクターに言わせるが、これがペナペナに薄っぺらい。
検索するとそういう文言が異口同音で語られているのがわかる。

いまどきブログにかなりの文字量でもって感想を投稿するような人が少なくない数、いる。
諦念を持っていて、なおかつ映画館に足を運んで平成仮面ライダーの映画を鑑賞するという振る舞いをするのである。
そういうねじくれた意識の持ち主なので、観客の年齢層は高い。

さて、我々は映画館で「ダークナイト3部作」であったり、「アイアンマン」「キャプテンアメリカ」「X-men」といったアメリカン・コミックスを真面目にカネと手間ひまをかけて映画化した作品を見ることができる。
しかも、仮面ライダー映画と料金は同じだ。

対比して書くのは虚しい。

世界じゅうの人が鑑賞することを念頭に、シナリオにも映像にも、時間も金もかける。誰でもわかるストーリーと人物造型。

映像はヒーロー物の躍動感がしっかりとあり、見せ場もたっぷり。
集まったヒーローの見せ場を
予告編を見比べただけで違いは明確にわかる。

仮面ライダー映画とは、拡張された
「屋上アトラクション」である。

 平成仮面ライダーの映画は映画館で上映しているから「映画」に区分される。
そうだろうか。
中身は映画のような/映画ではない、まがい物にしか見えない。
登場人物の多い「デパートの屋上のショー」に見える。
お面をかぶった人物が大量に出てきて、戦って勝つ。それを90分くらいの時間をかけてやってる。
「デパートの屋上のショー」だと1ヶ所でしかできない。
しかし、屋上ショーを映画に仕立てれば、全国のシネコンに集客できる。しかもお金を払ってくれる。
「デパートの屋上のショー」は親子連れしか来ないが、映画に仕立てれば、可処分所得を持ったオトナも引っ張ってこれる。
年のいったファンとはありがたいもので、玩具は買わないけれど、「映画」に足を運び、Blu-rayソフトを買ったり、配信サービスを見てくれたりして利益を確保できる。
利益が上がるから、毎年劇場用映画を2本下3本公開してファンにお金を使わせる。
『仮面ライダー』の映画は、TVシリーズの片手間に作られる手抜き商品である。
でありながら、金儲けができるというビジネスモデルを確立できたのだから、制作者と著作権者どもは笑いが止まらないだろう。

マゾヒストたちのための、
仮面ライダー映画。

劇場版『仮面ライダー』は、常連客をシネマコンプレックスに誘導してカネをせしめる商売だ。みんな金を払って見る。
みんな、仮面ライダーが好きだ。
だから見る。
デキはいつものように期待を裏切るヒドいものだ。
見終わったあとで、作品のデキについて、喫茶店や居酒屋で同好同病の友人たちとともに悪口言って盛り上がる。もしくは、辛辣な内容のソーシャルメディア投稿やブログ投稿やなんかで文句を書く。

ラーメン屋がある。おいしくないのに、固定客が付いている。
変わった店だ。
店主が、不味いのを承知で足を運ぶ客相手に、バカにした表情を浮かべてニヤニヤしながら、「いらっしゃい、今日も自信作だよ」と言っている。
スープはダシをちゃんと取っていない。うまみ調味料と香辛料を大量に入れて、それらしい味にしてごまかしてる。
麺は茹で過ぎで伸びてる。
具も肉には見えるが何かわからないものを中心に、色々なものを入れてあるがちゃんと料理されていないので食べにくい。
それでも、近所にはラーメン屋がないので、少しでも味が良くなるのを期待して足を運ぶ客が引きも切らない。
しかし、店主はニヤニヤしながらまずいラーメンを作って出す。
客は黙ってラーメンを食う。無言で店を去る。
家に帰って、ブログに悪口を書くが、数日後にはまた足を運ぶ。
店内では、店主がバカにした表情を浮かべてニヤニヤしている。

平成仮面ライダー映画と、熱心に劇場で鑑賞するオールド・ファン a.k.a おっさんファンの関係はそのような奇怪なものになっている。

なんだかSMの女王様と奴隷の関係みたいでもある。

奴隷たるオールド・ファンは、映画を見終えて不出来を嘆きつつ、その不出来に言いしれぬ歓喜にうち震えて次なる映画を待つ。ありがたいことに半年待てば新作はあるのだ。
ああ、今回もまたひどい出来だった。しかし、次こそはきっといい出来の映画を恵んでくださるに違いない。

かくて世界はループしてゆく。
ループのなかで、いつか素晴らしい『仮面ライダー』の映画が観られるかもしれないし、そういう機会は永遠に来ないのかもしれない。


 『平成ライダー対昭和ライダー 仮面ライダー大戦 feat.スーパー戦隊』の感想を書いておく。
この映画は「被り物」のメリットを最大限に活かした映画である。昭和の仮面ライダーたちのほとんどは、変身後の姿で登場する。声も声優が担当している。キャスティングで苦労することが軽減され、ギャラを大幅に節約できるという副次的な効果もある。
「死んだ少年の思いに答えるべく闘うライダーたち」というお話がどうやら主題らしいのだが、登場人物がバカみたいに多く、それぞれのエピソードを消化するために尺を取られていく。
でもって昭和ライダー対平成ライダーだったりスーパー戦隊の助っ人だったりも盛り込まれ、擬闘と派手でペナペナの映像のなかに主題は消えてゆく。
陳腐化した正義のヒーローものの「お約束」を取りあえず入れておきましたよ、という感想を得たが、あとは何も残らない。
画作りでは、何でもかんでもPCで合成して、画面をゴタゴタにするだけで重みやリアリズムが感じられないというのはなんとかならないものなのか。
歴代のヒーローがたくさん出て、みんな見せ場を持ってるので見せ場だらけである。見せ場には見た目が派手なCGが使われる。そのCGを見ると、制作費を叩きに叩かれたCGプロダクションのスタッフのことを連想する。かれらが不眠不休でモニタ前に陣取って作業する様子を想像してしまう。

見せ場を詰め込んだ、とプロデューサーは語った。
しかし、見せ場ヤマ場続きの映画って、結局のところ平板で退屈に近づく。

そういうものだ。


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