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2015/10/03

西崎義展と宇宙戦艦ヤマト Part3

西崎義展はアニメが好きだったんだろうか?

アニメ制作の現場を理解していたのだろうか?

西崎義展は会議魔だった。
かつて西崎義展プロデュースの作品に参加したスタッフは、口を揃えて述懐する。
スタッフを集めての、会議に次ぐ会議。
映画館での上映、テレビ放映、いずれも期限が決まっている。
当然のことながら動画制作に充てられるべき時間が圧迫される。
当然の事ながら絵が荒れ、作画や撮影のミスは省みられることはなく、当然の結果としてアニメとしては質の低いものになってしまう。




山本(弘) 西崎義展からすごいしつこい電話かかってくるんだよね。「ぜひSF設定お願いしますって」
岡田(斗司夫) デスラーみたいな声で(笑)
山本 とにかくこっちは忙しいから、なんとか断ろうと思うんだけど、向うは押してくる。「とにかく設定書を送ります」って。
ヤマトが新たな人類の移住先を見つけなくちゃいけないっていうんで、銀河中心に行ったら、銀河中心にUSA的大国がある(笑)。ちゃんとその企画書に 「USA的大国」って(笑)。で、そいつが銀河の国連を牛耳ってて、小国をいじめてる。で、ヤマトが「八紘一宇の精神を発揮して」…(笑)。
岡田 で、表紙見たら「原案/石原慎太郎」って書いてあったっていう(笑)。

岡 田 俺ね、前田真宏が『YAMATO2520』始めた頃にヤマトスタッフルームへ遊びに行ったんですよ。とにかく『ヤマト』の設定っていうの、僕も見たくて見 たくてしょうがなかったから(笑)。「真宏君、ヤマトの設定見せて!」って言ったら、全員顔を見合わせるんですよ。「なにかな?」って思ったらね、なんか すっごいデカいキャビネットをバカッーッと開いたら、180センチくらいの紙が積んであるんですよね。「うわぁ〜っ!!」って思ったら、そのドアに 「1」って書いてあるんですよね。キロじゃなくて、トンで計るくらいの紙が…。ものすごかったですよ。とにかく、どこ見ていいかわかんないですよ。結局、 西崎さんって10何人でやってるブレインストーミングとかを、全部テープ起こししてるんですよ。
だから、大阪教育大学の堀江純さんとかそういうふうな人たちで。で、僕らとかでこういうふうにバカばなしする時でも、とにかく『ヤマト』のアイデアになってる。
その辺ではね、あの人はやっぱ超一流のプロデューサーだとは思いますよ。
全部テキスト化して、全部残してる。
コンテ切ってる最中に「組み立てドックの設定が…」って言ったら、「あーっ、これ、7年前に小林誠さんが描いたやつだ!宝庫ダナ!」って言って(笑)。もう、ホントに180センチぐらいあって。
山本 なんか、ありとあらゆるアイデアがあそこに詰まってるんじゃないの?
岡田 それぐらい分量がある。で、それぐらい一つ一つのアイデアが使えるんですよ。

(1999年『封印ー史上最強のオタク座談会』岡田 斗司夫+ 山本 弘+ 田中 公平、音楽専科社 (1999/07)

西崎義展は会議に時間を費やしては作品に関する情熱を語り、作品の設定にも時間と労力とお金をかけたことがよくわかる。
これは、アニメに関する権利をプロデューサーに集約するという点でも必要だった。

しかし、最終的なアウトプットたるフィルムは、質が低い。これが西崎義展が手がけたアニメの特徴だ。





長い会議のアウトプットや膨大な設定が、作品に生きているとは限らない。

 例えば、『YAMATO2520』は制作会社の倒産によって中断した。
例えば、『さらば宇宙戦艦ヤマト』以降のシリーズは会議に時間を費やしたというのに、「宇宙から未知なる敵が攻めてきて、地球は危機的な状況になる。ヤマトが出撃して多くの犠牲を払いながらも敵を撃退する」というパターンに陥っている。
敵が入れ替わっただけで同じような話を繰り返しているだけだ。

西崎義展はヤマトで莫大な利益を手にしたが、同時に、宇宙戦艦ヤマトに囚われた存在である。
その生涯はヤマトに呪縛されたとも言える。

まず、ポスト『宇宙戦艦ヤマト』として制作された『宇宙空母ブルーノア』から見えてくる<西崎義展におけるヤマトの呪縛>について。

「ちょっと手伝わないか」のひとことで、
いきなり「宇宙空母ブルーノア」のスタッフになる

堺  
 早速ですけれど、金子さんは、恐竜の本をはじめとした科学解説書を書いておられたり、TVの科学ドキュメンタリーのアドバイザーをしておられたり、そして今回お話を伺おうとしているTVアニメの科学考証やSF設定をしておられたりと、多方面で活躍されているわけですが、ご職業というか肩書きとしては、科学解説家とかサイエンスライターということでよろしいのでしょうか?

金子 
 そうですね。どれも業務の一環というつもりですけれど、アニメやTV関係というのはいつもある仕事ではないですから、注文があれば応じるという程度のことです。

堺  
 私が金子さんのお名前を最初に記憶したのは、アニメのSF設定からだったんですが。

金子 
 本当にろくなアニメに関わっていないですから、思い出したくないものが。(笑)

堺  
 サイエンスライターになられたきっかけはなんだったんですか?

金子 
 大学にいた頃からぼちぼちとそういう感じのことをやっていたんです。それで、そのままずるずる就職しないでこの道に入ってしまいました。

堺  
 大学でのご専門は?

金子 
 それが経営学で。文科系出身なんですよ。だけれどハードSFは、前から一番肌に合うとは思っていました。

堺  
 じゃあ、ハードSF研究所に入会されたのは、お仕事を始められた後なんですか?

金子 
 82年だったと思うんですけど、たまたま確かNHKの何かの番組で、石原藤夫先生に出演依頼をしたときに初めてお目にかかって、それでお話をしているうちに何か見込まれてしまったようで、いきなり「入れ」と。お誘いを受けて入って、といってそれが特に仕事に結びついたというわけでもありませんが、ただ、何度か石原先生と共著はやらせていただきました。

堺  
 なるほど。ではアニメの仕事というのはどうやって、……と、その前にアニメはお好きだったんですか?

金子 
 子どもの頃はごく普通にアニメを見ていましたけれど、その頃すでにチャンネルを合わせるとしたら大体SF系のものでしたから、そういう意味ではSFアニメには最初から惹かれていたのだと思いますけれど、一般的ないわゆるアニメファンとはぜんぜん違っていました。ある年齢層になってからはアニメから離れてしまって、後はもうSFを読む一辺倒で、ほとんどアニメを見たことがなかったのです。だからずいぶんブランクがあった後いきなり……。(笑)

堺  
 仕事になっちゃったわけですね。(笑)

金子 
 細かいいきさつがどうだったのか、ちょっと記憶にないのですが、「OUT」(みのり書房)という雑誌がありまして、あそこの編集者だったKというのが、うちの大学SF研の先輩なんです。彼はボクよりふたつ先輩で、先に卒業して雑誌に入ったんです。その頃、ボクは中央大学SF研にいたんですけど、彼は人脈を頼ってよくSF研のメンバーに仕事を持ち掛けていまして。その彼が、ボクがハード系のものを書いているというのを知ったらしくて。「新しいアニメの企画があるんだけど、ちょっと手伝ってくれないか」と言われて、いきなり連れていかれたのが、その頃九段下にあったウエストケープ・コーポレーションだったんです。

堺  
 それはいつ頃の話なんですか?

金子 
 「宇宙空母ブルーノア」の放映って何年でしたっけ? その1年前の話なんですよ。昭和51、2年じゃなかったでしょうか。で、何の話かなと思って行ってみたら、もういきなりアレですからね。まったく常識も論理も通用しない大人の集団というのを生まれてはじめて見ましたよ。いきなりテーブルにブルーノアの木型が置いてあって。あのとき、提供のおもちゃ会社の要請でメカが作られているとはじめて知ったんですけど。「この形をどう思う」と言われても、どうもこうもないでしょう。あれでもボクが「そこが違う。あそこが違う」といって多少は形がまともになった方です。ご存知ですか、あのアニメ?

堺  
 私は全話見ていました。金子さんのお名前を知ったのはあのアニメですから。いや、つらいんだろうなあ、と。(笑)

金子 
 そうですか。(苦笑)
船の形は一応しているんですが、喫水を思いきり深くとった場合、浮かべれば何とか転覆しないで浮かんでいられるぎりぎりの形なんです。あの船、甲板が開いて空母になりますよね。初期の設定ですと、開いたあと、浮力を与えている船体の部分がごそっと抜けて潜水艦になって走っていくという設定になっていた。

堺  
 じゃ空母甲板はどうなるんですか?

金子 
 わからないです。

堺  
 いかだみたいですね。(笑)

金子 
 いかだというより、中央の抜けた後の両側の細い船体だけで浮力を全部稼いで、水上に浮かんでいるのです。で、中身は走っていってしまう。そのあいだこれは何をやっているのか。沈められたらそれでおしまいだし、そもそも浮かんでいることができないと思うんです。アルキメデスの法則そのものを完全に無視していますから。いくらなんでもそれはないんじゃないかと、何とか艦首のバルバス・バウ(球状船首)の部分を小型潜水艦の艦首と合わせて、その潜水艦が分離していなくなった後、そこを閉じてタンクにして海水を入れて何とかバランスを取るということにしたんですが。今度は後ろの部分が問題で。

堺  
 最初のうちはヘリが分離して飛んでいく部分ですね。

金子 
 あれがブルーノアのメイン推進システムになってて、ロケット吹かすんです。大体どう見ても空を飛ぶ形をしてませんからね。揚力を発生するシステムがどこにもない。せめてこういう形にしようと、ボクは自分で描いた側面図を持っていったんです。ところが、なにしろスタッフルームにいたのは、西崎御大を中心にしまして、後は「桃太郎侍」のシナリオを書いていた人とかそういう人たちばかりで、こちらが何を言ってもまったくダメなんですよ。

堺  
 うーーむ。

慣性の法則を説明したところが、
「金子氏アイデア」と書かれた


金子 
 例えば慣性の法則を説明したら、<金子氏アイデア>とデカデカと書いて、その絵を一生懸命描いてるんです。(苦笑)

堺  
 慣性の法則がアイデアですか?!(爆笑)

金子 
 ところが不思議なことに、その中に1人だけ、常識のレベルで話が通じる妙にまともな人がいたんです。ボクが「せめてこれだけは何とかしてくれ」と描いた側面図を見せますと、「あ、これはリフティング・ボディですね」と、ぼそっとひとことだけ言う人がいるんですよ。何をどう話しても他の人はまったく反応しないのですけど、その人だけが的確な対応をする。で、「これは1人だけ味方がいた。この人の常識にしたがっていけば、なんとかこのアニメを引っ張っていけるだろう」と思ったんですけど、周りの人はその人に対して妙に冷たいんです。西崎御大もその人だけ名字を呼び捨てにしていて。最初、名前だと思ったんですよ。安彦、安彦って気軽に呼び掛けてましてね。明らかにその人は周りから浮いているんです。後で気がついたんですけど、その人が安彦良和さんだったんですね。

堺  
 え、最初は安彦さんもブルーノアにからんでたんですか?

金子 
 最初、安彦氏も設定だかキャラだかで引っ張り込まれて「宇宙空母ブルーノア」のメインスタッフになるはずだったんです。彼がそのまま残っていてくれればどんなに変わったかと思うのですが、実はやはり彼もものすごく居心地が悪くなっていたみたいでして、突然スタッフからいなくなってしまった。どうしたのかなと思ってたら、それから数ヶ月して、彼が別のアニメで動いているという話を聞きまして、しかもハインラインの「宇宙の戦士」の巨大版みたいだというんです。それが……

堺  
 「機動戦士ガンダム」だったんですね。(笑)

金子 
 あれは惜しいことをしたと思っています。あの時「宇宙空母ブルーノア」を蹴って安彦さんにくっついていけば良かったと、今にして思いますけどね。「ブルーノア」も何とかSFにしてやろうと、こちら側には志はあったんです。だけど、そのうちシナリオライターなんか口もきかなくなりましたね。何しろ書いてくる原稿が半分ぐらい○で埋めてあるんです。で、戦闘シーンになるとあっちの方から何がやってきて、こっちがどういう対応して距離がいくら方位がいくら、何でどういうふうに砲撃してどう逃げてというようなシナリオの穴埋めが全部こっちに回ってきちゃう。あれは楽な仕事だったと思いますね、向こうにとっては。
結局「宇宙空母ブルーノア」は実質的に野垂れ死にです。確か最初3クールを予定していたのが、2クールで打ち切りでしたから。

堺  
 2クール目の後半でやっと宇宙に上がったと思ったら、敵が皆病気で死にかけてたという「宇宙戦争」みたいなオチがついてましたね。(笑)

金子 
 宇宙空母という割にはいつまでたっても宇宙に行かないしね。まあ、元々、あのアニメの原作というか元は、田中光二さんの「わが赴くは蒼き大地」だったんですけどね。

堺  
 えーっ?!

金子 
 あれをアニメ化しようというのが、そもそもの発想だったらしいんです。あの作品は、よく考えてみたら西崎アニメの黄金のワンパターンにはまってますからね。もちろん田中さんは、ゼラズニィの「地獄のハイウェイ」の海洋版をやりたいとはっきり言ってたんですけど。ところがそれが「ブルーノア」になると、大西洋の基地から太平洋の基地まで、潜水艦一隻だけでなみいる敵をかいくぐり、第一次防衛圏、第二次防衛圏、絶対防衛圏とばりばり打ち破っていって、最後に大ボスが出てくるという展開になっちゃって。まあ、西崎氏といえば、すべてこのパターンだけで通した方ですけど。(笑)

堺  
 この話、面白いんですけど、活字にしてしまっていいんですか?(苦笑)

金子 
 いいでしょう。いくらなんでも時効でしょう。ひどかったですね本当に、あそこの制作体制は。実際にこっちが何を言っても向こうが理解できない。向こうってつまり西崎氏1人のことなんですけれどね。彼のセンスに合わないか理解不可能なものは全部カットされました。

堺  
 じゃ、結構つらい体験でしたか。

金子 
 辛いというか、ボクはアニメ化がどういうものか知りませんでしたから、これが常識的な線なのかなと。

SF設定という仕事?
〜金子隆一&小林伸光インタビュー〜堺三保

金子隆一氏プロフィール

1956年、神戸生まれ。中央大学卒。大学在学中より文筆業を始める。主著は『新恐竜伝説』(早川書房)、『テラフォーミング』(NTT出版)、『図解クローンテクノロジー』他多数。2013年没。

金子隆一氏は『宇宙空母ブルーノア』にSF設定として参加。
理解力のあるスタッフがいない中で奮闘した。話が通ずる安彦良和も降板し、孤軍奮闘した。当時、まともにSFが書けるシナリオライターは少なく、「桃太郎侍」を書いてるライターなどを相手に。
インタビューで「原作」と指摘されていた田中光二『我が赴くは蒼き大地』について触れておく。
2205年、地球は突如、宇宙から、“敵(E・M)”の襲撃を受けた。地上の人類は死に絶え、残されたのは、海中都市に住む人々だけだった。海底の彼らにも侵略の手が近づく中、“敵”がインフルエンザヴィルスに抵抗力のないことが判明する。ヴィルスの増殖設備を持つバハマ・シティへサンプルを届けるべく水中歩兵部隊員・チヒロは、精神感応術者・ジャンとともに深海の決死行へと赴くのだが…。
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 『宇宙空母ブルーノア』は、1979年〜80年西崎義展が「ヤマトは松本零士の功績によって売れた」という、劇場版第1作・『さらば宇宙戦艦ヤマト』の頃のアニメファンの間に漂っていた空気に反発して制作したものだとも思える。
70年代の終わりは、アニメーションの演出家や作画監督にようやく光が当たり始めた頃である。例えば、マンガが原作だとしたら原作者にスポットライトが当たって、アニメの現場の人は省みられなかった。まだ、<プロデューサー>は認知されていない。
『宇宙戦艦ヤマト』は、メディアにもファンにも<松本零士作品>として認識されていた。こういったアニメファンの「空気」に反証を見せようと試みたのが、 『宇宙空母ブルーノア』だった。

 『宇宙空母ブルーノア』はこういうストーリーである。
 ときに西暦2050年、異星人ゴドムの来襲により地球は壊滅状態となり、人口の90%を失ってしまった。
ゴドムは母星を失って人工惑星で宇宙を放浪、次なる母星を探し求めていたのだ。
だが、地球には最後の切り札があった。
日本・小笠原の海洋開発研究センター(ポイントN1)で密かに建造されていた戦略空母「ブルーノア」は、人類の危機に当たり完成率9割の状態で進水。ゴドムが太平洋各地に建設した基地を破壊し、ゴドムから地球を解放するために出撃する。
科学者だった父の遺言からその秘密を知った日下真は仲間たちとともにポイントN1を訪れ、艦長の土門鋭と出会う。
そして地球を担う若者たちを乗せブルーノアの旅立つ日がやってきた。

物語がスタートした時点で地球は壊滅状態。
人類を救うため「宇宙空母ブルーノア」はゴドムに戦いを挑む。
ブルーノアの切り札は、艦首に装備された一撃必殺の「反陽子砲」である。ただし、一度使うと多くのエネルギーを使うため、ブルーノアはしばらく動くことが出来なくなるのだ。
作品中、ブルーノアどころか搭載されているはずの戦闘機さえもほとんど戦うことはなく、戦いの要は艦首に搭載された潜水艦シイラか船尾に搭載された戦闘ヘリバイソンでした。と言うよりも、ほとんど潜水艦戦がメインだった。当然主人公も潜水艦に搭乗していた。
ブルーノアは、戦艦であり空母であり、さらに甲板を閉じれば潜水も可能である。
ブルーノアは「宇宙空母」を名乗っているのに空を飛ぶ場面がない。
敵の本拠地は宇宙にある人工惑星なので、シリーズ後半にブルーノアは「反重力エンジン」を搭載し宇宙に飛び立つ。
いざ、闘いと思いきや、ゴドム人は宇宙ウィルスが蔓延してほぼ全滅してしまった。

絵柄を見てほしい。
このような雑なアニメでだった。




視聴率が振るわなくて、途中で打ち切りになった。
敵がウィルスに弱いという点で、田中光二『我が赴くは蒼き大地』のストーリーを踏襲している。しかし、打ち切りで拡げた風呂敷を畳むためにウィルスを持ちだして敵をほぼ全滅させたとも取れる。

『宇宙空母ブルーノア』は、『宇宙戦艦ヤマト』の同工異曲である。
松本零士カラーを抜いた『宇宙戦艦ヤマト』である。松本零士カラーを抜いたのに、別な
魅力を備えることができなかった。

『さらば宇宙戦艦ヤマト』から『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』までの続編も、第1TVシリーズの同工異曲に過ぎない。西崎義展は会議にたっぷり時間をかけて膨大な設定を作った。
だというのに、最終的なストーリーラインは、いつもほぼ同じになる。

宇宙から未知なる脅威が地球を襲う。→地球は深刻な危機、もしくはほぼ壊滅的な状況に陥る→人類を救うため、密かに開発されていた宇宙戦闘艦が飛び立つ。→宇宙戦闘艦に、救いの手を差し伸べる<女神>的な存在→敵との激烈な戦闘で被害は甚大。→敵はさらにラスボス的な超兵器を繰り出す→重要な登場人物が生命と引き換えに宇宙戦闘艦は危機を脱出→終わり間際、唐突に語られる愛とか共存。

ここで『宇宙空母ブルーノア』を持ちだしたのは、西崎義展が手がける「アニメ制作現場」の酷さを検証するためでもある。

向こうってつまり西崎氏1人のことなんですけれどね。彼のセンスに合わないか理解不可能なものは全部カットされました。


『宇宙戦艦ヤマト』に話を戻す。

『さらば宇宙戦艦ヤマト』から『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』まで作画監督・キャラクターデザインを担当した高橋信也へのインタビューだ。

━━━ところで、「ヤマトよ永遠に」のサーシャのキャラをアニメージュの編集部の人が、これは高橋さんが作ったんじゃないよ。画家の大森さん(かな?)のイメージを作っただけと言っていましたが。

あーそれ!違うよ!!たまたま似ていた、というだけで、、、。アニメージュなんて、ホントデタラメばかりだねぇ、もう、ひどい!!。あれはねぇ、松本さんのイメージをもらって,僕がそれを自分のイメージで描いて。 

━━━そういえば、目つきとか全然違いますね、,,。

そう!そしたら西崎さんが、それ、いいってね。そしたら松本さんが僕のイメージと全然違う!!ってケンカしだしちゃってね、,,。その間、僕がシュンとして、、、笑。

━━━ヤマトもハードスケジュールで作っているんですね。

    そうね、1,2,3作目としては奇跡とでも言えるんじゃない?普通だんだんと落ちてくるもんだから。

━━━でもなんかストーリーっていうのか、ラブストーリーばかりで、,,。

    そうだね。でも最初は,ベッドシーンでも入れようかっていう事だったんだけど、西崎さんがカンカン!!。で、雪とアルフォンのキスシーンがあったんだけど、撮影のラッシュのとき西崎さんが見つけてカンカンに怒ってね。あの人、顔のわりにはロマンチストだからそういうの嫌がるのね。

━━━話は戻るんですが、ヤマトってのはどのくらいで出来たんですか?

   あれね、だいたい3ヶ月くらいじゃない?実際はもっとひどかったよ。
 サーシャの設定2日でやらされたんだ。アカデミーの前にホテルがあるんだけど,そこに閉じ込められて。スタジオにいると抜け出されるって言うもんで、,,。

高橋信也インタビュー メーテル会報Vol12より

2時間を越える劇場用アニメの制作に与えられた実質的な制作期間が3ヶ月。

劇場用アニメの制作期間はどのくらいなのだろうか。


テレビシリーズと同様に、必要となる期間について右に示す。劇場用映画の場合は、シナリオや絵コンテが重要となるので、作業時間に占めるウエイトも重い。40分の映画では、右図に示すとおり、シナリオ・絵コンテが決定してから、約4ヵ月強を要する。50分の映画では約5か月強、60分の映画では6ヵ月強と、作業時間は増えていく。
 「コンテンツ・プロデュース機能の基盤強化に関する調査研究・アニメーション製作」(経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課)


絵コンテが決定して以降に要する時間は、劇場用アニメ40分で4ヶ月、60分で6ヶ月。
となると2時間の劇場用アニメを作る場合、12ヶ月の時間が必要ということになる。

それがヤマトの映画では、たったの3ヶ月しかかけていなかったのだ。
しかも、ヤマトの映画は2時間を大きく超えている。

 『さらば宇宙戦艦ヤマト』は151分。
『ヤマトよ永遠に』は145分。
『宇宙戦艦ヤマト完結編』は163分(70mm版)もあるのだ。

西崎義展は会議に時間を費やした挙句、制作時間を短くした。
制作現場には突貫作業を強要したのだ。

その結果は、作品を見るとわかる。
作画は統一されておらず、ひどく粗雑に描かれるカットがあり、彩色のミスが見られ、撮影ではセルが光を反射したり、セルに引っ付いたゴミがあったり。

アニメを作るというのに、制作現場が省みられていないのだ。

野崎 ただね、西崎さんのやり方というのはアニメの生粋のやり方でいった人は反発しちゃうよ。だって我侭だもの‥。何も人に任せない。だから現場は その分“監督不在”‥。ラッシュ試写に誰も来ないんだから‥。いや、本当だよ。未だかつてあそこでラッシュ見に来た監督って1人もいないよ。全部、色指定 でも何でも西崎さんのところへ持って行かないといけない。ああだこうだ弄くり回すじゃない。だからフィルムの制作時間が無くなっちゃったんですよ」

高橋 ・・・・。

野崎 それで現場の時間が全くないの。僕たちが“作画の時間がないですよ”って言ったってダメ。外部の監督とかシナリオライターとかそういうの大事にするからね。段取りばっかするんだよ。会議が多いんですよ。“会議でフィルムは出来ない”って何回も言ったんだけどさ。

サンライズ公式ウェブサイト特設ページ『アトムの遺伝子 ガンダムの夢』野崎欣宏・高橋良輔対談より(『アトムの遺伝子 ガンダムの夢』は削除されていて読めない)



西崎義展はアニメが好きだったんだろうか?

アニメ制作の現場を理解していたのだろうか?

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