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2015/10/04

ヤマトしかなかった男|『宇宙戦艦ヤマトを作った男 西崎義展の狂気』

「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気 』を読んだ。

芸能界にいてコンサートなどの興行を手がけていた男が、仕事仲間と金銭トラブルを起こした挙句、海外に逃亡。
ほとぼりが覚めた頃を見計らって、帰国。
今度は、アニメ制作者となって、『宇宙戦艦ヤマト』が映画化をきっかけにして大ヒットとなり、続編『さらば宇宙戦艦ヤマト』も大ヒットして巨万の富とともに「時代の寵児」だの「大プロデューサー」だのといった虚名を得た。




この本は、西崎義展の人生から『宇宙戦艦ヤマト』を引き算すると何が残ったのかを明確に示している。

カネと女と虚栄心と麻薬である。

メディアに登場した時には「人間とは愛だ」「宇宙愛」などというコトバを好んで使っていた男は、裏では世俗的で俗悪なあらゆる欲にまみれて爛れた日々を送っていたということを、これでもかと抉ってみせる本だ。


西崎義展は2010年11月7日に小笠原で船から転落して水死した。
したがって、当人に取材して本に著すことはできない。
この本は、生前の西崎の言葉とともに、西崎義展の周囲にいた者、関わりを持った者の証言に基いて書かれている。
残念なことに、語ってほしい人はこの著作のうえでは語っていない。
松本零士、西崎彰司、富野由悠季、安彦良和、東北新社やバンダイビジュアルの関係者、そういった人々の証言はない。

人的評価は毀誉褒貶相半ばすると言いたいが、「毀」と「貶」ばかりが目立っている。
西崎義展の悪い行状ばかりが綴られる。
読んでいて、西崎義展は血縁にあるものとの関係が薄いということが気になった。
父母、実子、いずれも絶縁に近い状態だったようだ。
『宇宙戦艦ヤマト』の版権も血縁者ではなくて、養子の西崎彰司に相続された。
このあたりはもっと知りたいが、この本では事実が語られているだけだ。
おそらく、実子も親族も西崎義展について語ることはないだろう。

西崎義展は音楽業界で仕事をしていたが、金銭トラブルを起こして海外に一時逃亡、戻ってから虫プロ商事に入ってアニメ制作に手を染めることになる。
そして『宇宙戦艦ヤマト』という大鉱脈を見つけて莫大なカネを手にし、そのカネで手に入るものに溺れて捕まり、獄につながれた。
酒、女、薬物、武器。
男が金で手に入れられると妄想するものを手に入れていた。

西崎義展は、徹底したワンマン主義でもって『宇宙戦艦ヤマト』をコントロールしようとした。
残念なことに、西崎義展には物語作りの才能というものがなかった。
なので、「誰かが死んでお涙頂戴」の陳腐な作劇を繰り返し、いや、正しくは陳腐な作劇をスタッフに強要し、ファンから呆れられてしまった。
みんな去っていった。

かつて、劇場版『宇宙戦艦ヤマト』のファンだった人は、あるいは読まないほうがいいのかもしれない。
「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気 』は、1970年代から80年代中葉くらいに、善良なアニメファンを栄養にして肥え太った怪物の記録である。



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