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2015/06/02

ホラー|黒沢清 『叫』死者の死後のすがたとは?

死んでしまった人は、死んだ後でどういった姿になるのだろうか。
黒沢清監督の『叫(さけび)』を観ながらそういうことを考えていた。



死者の姿。
江戸時代の怪談はどうだったか。
「四谷怪談」のお岩さんは白装束、「番町皿屋敷」は生前の女中の姿で現れた。

円山応挙の幽霊画は死に装束。



別な人の描いた幽霊画。死んだ時の姿かな、これは。
「幽霊」っていうけど、屍体が動く、ゾンビのようにも思える。





昔、学習雑誌の夏の特集に載っていた怪談特集だとか、中岡俊哉先生や佐藤有文先生などのものした怪談本に登場する幽霊はどういう姿かたちかはあまり描写されていなかったけれど、死んだ時点での服装と書かれていることが多かったように思う。
空襲で亡くなった幽霊は昔の学生の姿だったり、防空頭巾姿だったり、と書かれていた。

衝撃的だったのは、実話怪談「超怖い話」の平山夢明執筆エピソードに登場した幽霊である。

赤羽の全焼したアパート跡に現れる幽霊。
老婆が、ビデオを巻き戻すように焼死のプロセスを繰り返す。画を思い浮かべてぞくぞくした。
大手町の将門の首塚から「持ち帰った」男が夜中、浴室で腸を洗う落ち武者を目撃する。
平山夢明の実話怪談では、事故や事件に遭遇して落命した者が、肉体が著しく損壊した姿で出現するというのが、ものすごくインパクトがあった。
何かの事故現場となったところで、人間の残骸のようなものがすがってきて、口と思しいところから何かを囁かれて失神する女性。
腐敗して崩れ落ちる幽霊。
読後感が最悪。
しかし、それが癖になる。



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映画の世界では、中田秀夫監督「リング」に登場した黒い長髪で白装束の貞子のインパクトは強烈だった。
以降、ホラー映画には貞子に似た幽霊が跋扈するようになった。
食傷気味になるくらいに。

黒沢清監督の映画『叫』(さけび)に出てくる幽霊に魅せられた。

幽霊は赤い服を着て、「ここにいる」と主張する。




映画『叫』(さけび)は、「忘却」についての映画だ。
死んだのに、誰にも顧みられずに忘れ去られていた女性の物語だ。

映画の舞台は再開発が進む、東京の湾岸地帯。
荒涼とした、土地の記憶も曖昧になっている場所だ。

連続殺人が発生した。海水を使って溺死させるという手口だ。
事件を追う刑事・吉岡(役所広司)は、犯行現場の水溜りの中で見覚えのあるコートのボタンを発見する。家に帰った後、吉岡は、自分のコートのボタンが無いことに気づく。
吉岡は自分の記憶を疑いはじめる。
捜査現場にボタンを拾いにいったその夜から、赤い服の女(葉月里緒奈)が吉岡のもとに現れるようになる。

身の潔白を自分自身に示そうと、吉岡は単独行動を始め、最初の事件現場を訪れる。
荒涼とした湾岸地帯。
吉岡の目の前に、赤い服の女が現れた。
この世のものと思えない女。
赤い服を着た幽霊は、吉岡を凝視する。
しかし、いくら記憶を探っても吉岡には恨みを受けるような覚えはない。

しかし、赤い服の幽霊はその後も何度も現れ、吉岡は恐怖に囚われる。

赤い服の幽霊は、誰からも忘れ去られた存在なのだ。


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赤い服を着た幽霊に強く魅せられた。

葉月里緒奈が闇の中、赤い服を着て浮かび上がる。
彼女ははっきりとした姿で映画に登場する。その姿はとても端正で、しかも美しい。
だが、生きた感じはまったくしない。まったくまばたきをせず、滑るように動いて、不快な叫び声をあげる。
捨てられて誰からも忘れ去られた女の叫びだ。

いつも新しい何かを提示してみせる黒沢清。
『叫』では新しい幽霊の見せ方を示してくれた。

それだけではない。
「怖いもの」についても、違った切り口で提示してくれた。

世界の滅びを予感させる、不穏な終幕もとても印象的だった。
そこではもうひとり登場する幽霊が声にならない叫びを上げる。
怖くて悲しい終幕だった。

死者は充満し、生者の世界と死者の世界の境界にある結界を破り、わたしたちのいる世界に出現しはじめたのかもしれない。


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一番怖かったのは人。自分も含め、人はなんて無責任な生き物なんだろうと思った。

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