Pages

2014/03/10

平井和正の言霊はどこにいるのか。

平井和正はどうしているんだろうか。




検索すればなんらかの情報が得られると思っていたが、平井和正の現状って、よくわからないのだ。
公式サイト「ウルフガイ・ドットコム」の掲示板を使って行われていた「近況報告」は、2008年10月で止まってしまった。近況の最後のエントリーは「ブログの準備であります」とあるが、本文では読者から多数の進言があったので、ブログはやめると書いてある。
新聞や雑誌などにはまず登場しない人なので、以降、近況はわからなくなってしまった。


平井和正は自著「ウルフガイ・シリーズ」「死霊狩り」などを「人類ダメ小説」と称した。作品では、人類の愚劣さや残酷さを抉り出していた。
私は「人類ダメ小説」が大好きで、いつも新刊を心待ちにしていた。
とくに「アダルト・ウルフガイシリーズ」は大好きだった。
「人狼」という大自然の精霊のような存在が、事件を通じて人間の業を告発する小説だ。
平井和正は寡作で、なかなか新刊が出ない人だった。新刊が出るとあっという間に読み終わって、次の新刊を待つのが楽しみだった。




「アダルト・ウルフガイシリーズ」は、フリーのルポライター・犬神明を主人公にしたハードボイルドSFである。犬神明は人狼で、満月の夜は不死身となる。犬神明の行くところ、トラブルの連続。知らないうちにCIAを敵に回している。最初は能天気なバイオレンス小説だと思えたが、やがて「不死」を巡る物語が主軸になっていく。CIAの背後にいる、不死を希求する真正白人集団<メトセラ・プロジェクト>と闘う羽目になる。爽快なアクションとはならず、人間の残虐さ・陰惨さを描く陰々滅々な小説になっていった。
しかし、祥伝社ノンノヴェル版「人狼白書」で首を傾げた。凄まじい怨念をもつ女と、それを操る悪魔が敵として現れたのだ。ものの喩えではなく、悪魔が敵として描かれたのだ。「アダルト・ウルフガイシリーズ」の犬神明の敵とはCIAであり、<メトセラ・プロジェクト>だったはずなのだが、真の敵は悪魔だった!
なんかイヤな感じがした。
その次に刊行された「人狼天使Ⅰ」所収の「ウルフガイ イン ソドム」はひっくり返ってしまった。犬神明の“前世”であるソドムの住人、カルデヤのウルの物語だったのである。前世なのに、時折、犬神明の意識が現れたりする。
「人狼天使Ⅰ」は「人狼天使Ⅱ」「人狼天使Ⅲ」と続く。犬神明は悪霊の巣窟・ニューヨークに赴いて<メトセラ・プロジェクト>と闘うのだ。
この「人狼天使」三部作をもって「第一期アダルト・ウルフガイシリーズ」は終了した。
(しかし、完結はしていない)

このあとで刊行されたアダルト・ウルフガイシリーズの前日譚「若き狼の肖像」は若き日の犬神明を描いた爽快な作品だった。「天使憑き」になってからの作品だが、その気配は微塵もなかった。
小説のなかに「西崎」という、親が大金持ちで悪い遊びばかりしている学生が登場する。それが妙に印象に残ってるのは、アニメで大儲けして豪遊をした挙句、クルーザーに武器を秘匿したり麻薬をキメて渋谷にいたりした、あの悪徳プロデューサーのことなんじゃないかと思ったからだ。

ある時、平井和正は「幻魔大戦」を小説化に手を付けた。角川書店「野性時代」に一挙掲載、そののちに文庫版出版をめざましいペースで続けた。並行して「真幻魔大戦」を出版していった。
どちらかと言えば寡作の人だった平井和正は、1980年代に入り、突如として量産型作家になってしまったのだ。
で、「幻魔大戦」は、平井和正がGLAという新興宗教に関与し、触発されて書いた小説であるらしい。平井和正は、この頃から「言霊」というコトバを使うようになり、
宗教臭/自己啓発臭にやられ、私は3巻あたりで読むのを断念し、平井和正から離れた。
(が、立ち読みは継続していた)

その後、「幻魔大戦の言霊」がいなくなって「ウルフガイの言霊」が戻ってきたという理由で「幻魔大戦」をいったん畳んで、第二期「ウルフガイ・シリーズ」に手を付けて、その後また「幻魔の言霊」が来たのか「幻魔大戦deep」「幻魔大戦deepトルテック」というものを書いている。

平井和正とは、言霊に憑依されて小説を書いてきた人ではなかったか。

「死霊狩り」「ウルフガイ・シリーズ」「アダルトウルフガイ・シリーズ」を書いた時には大藪春彦の言霊が降りてきた。
大藪春彦の言霊に書かされていた。
突如として多作になったのは「幻魔の言霊」が降りてきたから。
「幻魔大戦」「真幻魔大戦」は、平井和正がGLAという新・新興宗教にはまった結果描かれている。GLAの教祖・高橋信次とその娘・高橋佳子が唱える教義に影響を受けているようだ。そればかりか、平井和正は、高橋佳子のゴーストライターとして「真創世記」3部作を執筆して、布教活動を強力にバックアップしていた。
さて、平井和正に「幻魔大戦」を書かせた言霊を「幻魔の言霊」と書いた。「GLAの言霊」とか「高橋佳子の言霊」とか「大天使ミカエルの言霊」ではない。
平井和正が怒涛の勢いで「幻魔大戦」執筆を進めるうちに、GLA内部では紛争が起こった。教祖・高橋信次の死により2代目教祖になった大天使ミカエル・高橋佳子に反旗を翻して「私こそが本物のミカエル」と主張する人が出たのだ。まあ、新興宗教にありがちなゴタゴタだ。教義で対立するのではなく、利権ほしさに争うんだから浅ましい。なお、GLAにはかつて中川隆という天才バカボンにそっくりな男も出入りしていて、後に教義もパクっているし、高橋信次を自分の教団宣伝にも利用している。
平井和正は教団と関わることを辞めた。そして、GLAの内部紛争やメッキが剥がれた教祖の姿を「幻魔大戦」に投影さえしていた。
「幻魔の言霊」が離れて行く前の平井和正の作家活動はけっこうメチャクチャな印象だ。「真幻魔大戦」のほかに、シナリオ形式の小説という触れ込みで「ハルマゲドンの少女」などというものも全3巻で刊行している。立ち読みしたら、最初の方は本当にシナリオで、徐々に手を抜いた小説のようなものになっていった。
これは、「幻魔大戦」と「真幻魔大戦」の架け橋であるらしい。
「ハルマゲドンの少女」執筆時には「幻魔の言霊」は去って、「ウルフガイの言霊」が降りてきて「ウルフガイ」の続きが怒涛の勢いで書かれた。
言霊などと書くと、なにやら意味ありげだが、要は「ハマった」ということなんだろう。
どっぷりハマって、ある時、それが文字通り「憑き物が落ちた」ようになって、しばらくするとまた別なものにハマる繰り返しだった。そういうことだと思う。





その後、PDFに目をつけ、電子書籍にいち早く取り組んだ。この時期、「週刊アスキー」でDOS/Vパソコン自作にハマる様子を報告するなどしていたことが妙に印象に残っている。一時期、スタパ齋藤の妙にテンションの高い文体にはまっていたことも言っていた。

その後、また幻魔の言霊が来て「幻魔大戦deep」は電子書籍、つづく「幻魔大戦deepトルテック」はCD-ROM出版を手がけた。
「幻魔大戦deepトルテック」は書籍版も刊行されたが、3巻で2万1千円という高額で手が出ない。
かつて、読者を思い、財布の負担が少ない文庫本刊行に力を入れたいというようなことを書いていた時期もあったことを思い出す。「文庫本の言霊」が憑いていたんだろうか。

いま、「幻魔大戦deepトルテック」の刊行は2008年、以降、平井和正の新作の情報も消息も聞こえてこない。

平井和正はどうしているんだろうか。



 

6 件のコメント:

  1. はじめまして。
    こちらの平井和正さんの娘さんのblogで、その後の平井和正さんのご様子を少しだけ垣間見ることができます。「父性の長期不在」というタイトルの連続記事で1から12までありますので、よかったらご覧になってみてください。
    http://ameblo.jp/payoco/entry-11519155708.html
    (ご存知でしたらすみません)

    返信削除
    返信
    1. ご教示いただき、ありがとうございます。
      興味深く読みました。
      平井さんは創作活動はもうされていない、そういう感じが何となく伝わってきたように思います。

      ずいぶんと昔、夢中になって読んだ作家ですのでやはり動向は気になります。

      削除
  2. https://www.facebook.com/mari.hirai

    お嬢様のFACEBOOKのアカウントです。MIXIとTwitterもやっていますが、FACEBOOkではご両親との関係も書いています。ご病気なので、もう書けないと思います。

    返信削除
    返信
    1. ご教示いただき、ありがとうございます。
      さびしい限りです・・・

      削除
  3. ご闘病の末、昨日亡くなられたそうです…
    https://twitter.com/JULY_MIRROR/status/556488430465458179

    返信削除
    返信
    1. 娘さんのFacebook投稿を読むと長く患っておられたようですね。

      https://m.facebook.com/permalink.php?story_fbid=326709684206231&id=100006016066068

      ご冥福をお祈りします。

      削除