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2018/02/08

お客さんを怒らせて『宇宙戦艦ヤマト2202』は失敗した。

世間では話題になっていないし、アニメ好きの人にもあまり注目されてはいないが、『宇宙戦艦ヤマト2202』第4章というものが公開された。



宇宙戦艦ヤマトはガトランティスと戦っていて、不思議な力で次々ピンチを切り抜け、驚愕すべき火力を持つロボットもしくは人が操縦する機動兵器みたいなモノも出てきてガンダムというかボトムズというか、そういったテイストも付け加えられてイスカンダル星のスターシアと約束して封印したはずの波動砲を使うかどうか悩んだ挙句、発射しました。死んだと思われたデスラーはもちろん(お約束の)あっと驚く展開で実は生きていて。
悪い意味で懐古趣味的なアニメになった。
『さらば宇宙戦艦ヤマト』『新たなる旅立ち』『ヤマトよ永遠に』あたりの雑でご都合主義的な展開を蘇らせて「ヤマトらしい」アニメになった。
人物はアップの口パク、艦隊は工夫のないコピペでセンスの悪いデザインの戦艦が配置されているだけで予算がないということを隠しさえしない。2009年公開の『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』のテイストが蘇ったとでも言おうか。

『宇宙戦艦ヤマト2199』の有能で情熱的なスタッフはもういないのだ。
それを強く感じる。

退屈なお話を退屈な見せ方でTVシリーズ4本ぶん。
TVでタダならまだいいが、Amazonで3,800円も取るのだ。
映画2本ぶんという強気の値段設定なのだ。





『宇宙戦艦ヤマト2202』をマーケティンの観点で考えてみる。

公開前のプロモーションが地味だった。
YoutTubeなどで冒頭10分の映像を期間を限定して公開する。
前景気を煽るためにスタッフのトーク番組を配信する。
イベント上映するシネコンで声優やスタッフの舞台挨拶、スタッフのティーチ・インやトークショーを開催する。

こんな程度である。
地味というより、工夫というものがない。

ネットで先行して映像公開という手法は、今や当たり前になってインパクトに欠ける。
ネット上のイベントなんて、関心を持って検索する人にしか届かない。
検索して観た人にしたところで、シネコンのイベント上映に行く人など、数百人に一人もいるかどうか。数万の再生回数があったとしても、シネコンに行ってチケットを買うとか、マーチャンダイズ商品を買うとか、購買行動に出る人など驚くほど少ない。
トークショーやティーチ・インは常連客向けのサービスで、新しいファンはなかなか来られない。
世の中のほとんどの人は、『宇宙戦艦ヤマト2202』が創られているということなど知らない、もしくは知っていても関心を持たない。

今回のプロモーションの目玉、ささきいさおが新録音で『宇宙戦艦ヤマト』を歌ったということだ。
詞は変わっていない。
「銀河をはなれ、イスカンダルへ〜」だという。
話題作りが「ささきいさおが44年前の主題歌を新しく歌い直しましたよ、聴いてください」である。
新規のお客を引っ張ってくる気持ちなどないのが、ここでもわかる。

そもそもシネコンでのイベント上映とは、Blu-rayやDVD、もしくは有料配信の宣伝のための施策である。
この施策は、宣伝なのに客からカネを取れる、シネコンに足を運んだ観客にモノを売りつける機会ができるという点で優れている。

セコいとも盗人猛々しいともいうが。

『機動戦士ガンダムUC』や『宇宙戦艦ヤマト2199』は、「TVアニメの体裁でありながら、シネコンの上映に映える作画クオリティと音響を備えた作品」であるとアピールして、Blu-ray/DVDに手を伸ばしてもらうことに成功した。
〈いい作品は手元に残したい〉という古来からのアニメファン心理を見事に撞いて、実際のBlu-ray/DVD販売に結びつき、映画以上の経済的な成功を手にした。

『宇宙戦艦ヤマト2202』はその点で問題がある。

多くは作画も演出もメカデザインの質に起因する。
おカネがなくてそのためか、いいスタッフがいなくて、TVアニメとしても決して高いとは言えないクオリティになっているのだ。いや、作画が安定している箇所もあるのだが。そうでないところもあって差がひどい。ネットの配信の料金とかBlu-ray/DVDの価格が見合っているかというと首を傾げたくなる。

『宇宙戦艦ヤマト2202』は、『宇宙戦艦ヤマト2199』の続篇であり、なおかつ『さらば宇宙戦艦ヤマト』『宇宙戦艦ヤマト2』のリメイクでもある。
きっちりと要素を整理して、なおかつおもしろく描き直して作品として仕上げなければならない。
それがうまくいったら、『バトルスター・ギャラクティカ』や『スター・ウォーズ』のように新しいお客さんを作ることができたはずだ。

しかしながら、それがうまくいっていない。
作品を応援してきたファンの多くを怒らせるもしくは静かに去らせてしまうような展開になっている。

これまでの3回のイベント上映でわかったのは、『宇宙戦艦ヤマト2202』には「新規顧客」がつかないという事実である。
昔から『ヤマト』が好きで、『ヤマト』に金を使ってきたファンたちしか付いてこないのだ。
しかも、お客さんの数は減ってきている。
『宇宙戦艦ヤマト2202』Blu-ray/DVDの売上を見てみよう。

○宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち(OVA) 【全7巻】
巻数    初動       2週計      累計     発売日
BD(DVD)     BD(DVD)    BD(DVD)
01巻 15,819(*4,986) 17,817(*6,081) 21,992(*7,775) 17.03.24 ※合計 29,767枚
02巻 16,351(*5,693) 17,726(*6,509) 19,878(*7,287) 17.07.28 ※合計 27,165枚
03巻 14,463(*5,006) 16,007(*5,895) 16,607(*6,215) 17.11.24 ※合計 22,822枚
04巻 **,***(**,***) **,***(**,***) **,***(**,***) **.**.** ※合計 **,***枚


『宇宙戦艦ヤマト2199』はどうだったか。

○宇宙戦艦ヤマト2199 【全7巻】
巻数    初動       2週計      累計     発売日
BD(DVD)     BD(DVD)    BD(DVD)
01巻 15,908(*6,101) 18,484(*7,793) 28,854(12,061) 12.05.25 ※合計 40,915枚
02巻 19,372(*7,444) 21,025(*8,899) 27,171(10,955) 12.07.27 ※合計 38,126枚
03巻 19,851(*8,146) 21,706(*9,494) 27,166(*9,980) 12.11.22 ※合計 37,146枚
04巻 20,491(*8,124) 22,552(*9,609) 28,175(10,951) 13.02.22 ※合計 39,126枚
05巻 23,318(*9,597) 24,475(10,499) 28,340(12,211) 13.05.28 ※合計 40,551枚
06巻 21,872(*9,084) 23,953(10,738) 27,197(12,531) 13.07.26 ※合計 39,728枚
07巻 22,714(*9,536) 24,626(10,990) 26,140(11,977) 13.10.25 ※合計 38,117枚

『宇宙戦艦ヤマト2202』は、まず、『宇宙戦艦ヤマト2199』の顧客のうち1万人以上が離脱してしまったと言える。
しかも、さらに減少が続いている。

顧客の半分近くがすでに離脱してしまった。

これまで『宇宙戦艦ヤマト』を支えてきたファンたちの購買行動はBlu-rayやDVD、書籍を中心にしている。内容の酷さから興行的に失敗した『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』ですら、ファンは買って作品を支えた。
ところが、『宇宙戦艦ヤマト2202』では買い支えという行動を取っていない。
おそらく、作品に対する不満が反映しているのだ。
第1章、2章と見てみたものの、不満を感じた。結果、続きのタイトルを買うのをやめた。
枚数の減少=ファンの減少と考えていいだろう。
減少を食い止めて、反転して顧客を増やし、利益を伸ばすことができるのだろうか。
『宇宙戦艦ヤマト2202』のファンは、作品をBlu-ray/DVDで買って手元に置く、そういう購買行動を取る古き良きアニメファンたちだ。
彼ら/彼女らが、買わなくなってしまった。
彼ら/彼女らは、『宇宙戦艦ヤマト2202』を『ヤマト』とは認めていないのだ。

ただ、顧客の購買行動が変化して、Blu-rayやDVDを買わなくなってAmazonなどの配信に移行した可能性はある。
顧客がネットでの視聴に移行した場合、客単価は半分以下に低下してしまう。
ネット配信によってディスクの製造という経費が削減できるので1配信あたりの利益は高いかもしれないが、それでも客が増えないと『宇宙戦艦ヤマト2199』と同等もしくはそれ以上の経済的成功は得られない。

Blu-ray/DVDのセールスの低下は、『宇宙戦艦ヤマト2202』がマーケティングで失敗したことを表している。

顧客が誰で、どういうものを好むのかをしっかりと調査分析してその結果を作品に反映しなかった結果なのだ。
『宇宙戦艦ヤマト2202』を支えているのは、昔から『ヤマト』が好きで、『ヤマト』に金を使ってきたファンたちだ。つまり、ロイヤリティの高い「既存顧客」である。
「これが見たかった」と思えるような作品であったら、嬉々としてカネを出す人たちだった。
彼ら/彼女らの多くは去った。

新規顧客など取ろうとしないで、既存顧客を逃がさない戦略に集中していたら経済的な成功を獲得し得たかもしれなかった。

あと、シネコンでの上映の動員数が伸びてるから成功、などという主張をする人がいるが、そもそも上映自体がBlu-ray/DVDの販売促進施策なのだ。そこでの収益など期待していない。全国10数カ所の上映で、スクリーンも大きくない。
そんなものでの興行的な成功とは何なのだろうか。

『宇宙戦艦ヤマト2202』は、第3章の出来に対してを受けての第4章については、「3章からしたら良く出来ている」という越えで一見、評価が高いように見える。
が、谷底まで堕ちた評価に比較して上がったから相対的によく見えているだけである。

はたして、お客さんの減少を食い止めて反転してのお客さん激増という奇跡は起こる日が来るのであろうか。

そうはならないだろう。

『第7章』まで、経済的な成功の果実も得られないまま、続くのだろうか。
すでに去った温厚なサイレントマジョリティは戻ることがあるんだろうか。
ファンはどこまでついていくんだろうか。







古き良き松本零士宇宙の色濃い『ヤマト』も、今は昔。


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